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2010年12月18日19:53

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小説の中の謎(44)  静かなるドンの怒り

 「静かなるドン」をネット検索すればまず漫画がでてきたが、ここは、ロシア革命に投げ込まれたドン川流域のコサック農民たちの、同族争う悲劇を描いたショーロホフの社会主義リアリズム小説である。主人公は直情径行、正義と人情に厚い熱血漢である。つまり、18世紀の小説なら文句なしのヒーロー、美女と結婚してめでたく終わるキャラクターなのであるが、同族相争う中で、革命派になったり、反革命派になったりで、結局、追いつめられて撃ち殺される直前で終わる。作者も死ぬところを見たくなかったのであろう。
 この小説は長いうえに暗く、気が滅入って後の方はあわただしく読み飛ばしたのであった。もちろん二度と読まなかったし、今も読む気はない。それを今取り上げるのは、この本の訳者解説に気になることが書いてあったからである。確か、河出書房版の世界文学全集だったと思ったのだが、もう50年にもなるので定かではない。
 その解説によれば、ショーロホフは泣く子も黙る鉄人独裁者スターリンに支持されて、ソヴィエト作家同盟の大ボス、彼が承知しなければソ連で作家になることはできなかったそうである。で、訳者が不思議がるのは、バラ色の革命家たちを描かず、こんなまっ暗がりにして、なぜ許されたのだろうかということにあった。
 思うに、リアリズムに文句を言えない。反革命派の末路もきっちり描いてある。当時の革命文学は、なんだか紙芝居を見ているようで(・・・挿し絵まであった)、質と量において、これを越えるリアリズム小説はなかったのだ。
 しかし、ショーロホフは、コサックたちの悲劇に泣いていたのだと思う。
 そう思うのは、似たようなことが、「ショスタコービッチの告白」にあったからである。彼も、スターリンに寵愛されたソヴィエトを代表する作曲家であったが、内心においては、スターリンに粛清処刑された人々への鎮魂歌だったとのことである。死後に、友人が原稿をもってアメリカに亡命したことで、その真意が明らかになったのである。
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