やはり兼家は詐病でした。
しかも、その策は晴明から買ったもので、道兼が帝に近づいたのもその一環でした。
とはいえ、兼家が倒れたことは本当で、晴明の祈祷によって目覚めたのであれば、
晴明の魂を呼び戻す力はホンモノなのか、と匂わせるあたりも上手い構成です。
さすがに、あからさまな態度の詮子は目覚めてたしなめた兼家ですが、
前のめりに当主気取りだった道隆の言葉も聞いていないはずがありません。
道兼は兄姉に先んじて役目が与えられたことが嬉しくて仕方ない様子ですが、
都合の良い駒として使われていることに気づいていないのが哀れです。
さて、今週はホッホウ直秀をめぐる物語です。
道長が彼らを検非違使に引き渡したのは、賊を捕らえた武者たちへのシメシでした。
検非違使なら権威と金で何とかできると考えたのでしょう。
友を助けるためとはいえ権力を使う醜悪さに、つい道長は自分の影を見てしまいます。
しかし、道長の策には二つの不純物が混じっています。
自家の武者については何をするかわからないし信用しきれないと言っていますが、
それは検非違使の下級の実行部隊たちとて同じです。
彼らも意志を持った人間だし、出来れば楽をしたいのは人の常というものです。
もう一つは、ホッホウ直秀らの住まいにいたために捕らえられたまひろと従者です。
たまたま金を渡しに来たところに二人が連行されてきたため道長は血相を変え、
右大臣家の三男の権威を最大限に使って二人の縄を解かせます。
もう、この時点で道長は、面倒なことばかり要求するイヤなエリート貴族でした。
さらに話をややこしくしているのは、
ホッホウ直秀が盗んだ物を貧しき民に施したため余罪の証拠がなく、
嫌疑は東三条殿の未遂案件しかありません。
道長が執拗に言うほど、検非違使側は彼らを重く考えていません。
そんな面倒な貴族に面従腹背した結果が「鳥辺野」だったのでしょう。
なお、このことについては、道長の検非違使への働きかけが、
「内々に殺せ」という意味に受け取られたという説がネット上にあふれました。
なるほどと思いつつ、起こってしまった事実への解釈の違いなので、
どちらが正解というものでもなく、このまま行きすぎるしかありません。
とはいえ、ホッホウ直秀の退場がこんなに早いとは思いもよりませんでした。
そもそも、あの後一度も「ホッホウ」する場面はなく、
まひろと道長は従者同士で連絡がとれる関係になっています。
ホッホウ直秀に残された仕事は、まひろと道長をより強く接近させることでした。
亡骸を前にして道長に出来た精一杯が、
群がるカラスを追いつつ彼らを土に埋め、その尊厳を取り戻すことでした。
帝が忯子に二度と対面できなかったように、死者に触れることはケガレです。
たとえ自分がケガレようともひたすら葬る道長。
まひろもそれに習います。
というわけで、今回の秀逸は、
意外とくすぶっていた左大臣雅信の妻・穆子による突然の赤染衛門への直撃でも、
漢文を読み下すだけでなく原語で音読することもできる為時の教養の深さでも、
帝への非礼以上に自分を怠慢と言う無礼に反応してしまう実資の勤勉ぶりでも、
忯子に思いを残す帝にすれば、
早く外大伯父になりたい義懐が次の子を欲しがるのが煩わしくなってきたのと比べると、
為時とともに親身に仕えてくれているかに見えるとはいえ、
絶対にあかんヤツやろうと邪推してしまう道兼の差し出す薬湯の中味でも、
病のフリから抜け出した兼家が、策の総仕上げとばかりに言い放った
「帝を玉座より引きおろし奉る」の敬語と悪意の大混線でもなく、
なんとか土に葬れたホッホウ直秀らに、ただただ「すまない」と泣き叫ぶ道長を
後ろから抱きしめるまひろの黄色の鮮やかさが感じさせるクリムト感。
ログインしてコメントを確認・投稿する