小説の主人公になるためには、何か特別な取り柄が必要だと思う。読み手の方は主人公に惹かれて、例えれば牛に引かれて善光寺参りするわけで、牛に魅力がなければ、読み続けられないし読み終わっても小説の全貌の幻が立ち現れてくれない。
�ー盟�記憶を持つ 「赤と黒」ジュリアン・ソレルと「神聖喜劇」東堂太郎
南仏の田舎町の評判の秀才（おまけにイケメン）ジュリアンは町長の子供たちの家庭教師となりレナール夫人と愛人関係になる。ジュリアンの才能を生かしたいと考えていた神父がパリの貴族の秘書に推薦したことで、ジュリアンは出世が確定するはずが、レナール夫人の罪の意識が破滅の元となった。
東堂太郎は日本社会の縮図のような（東堂のような九州帝大卒エリートから神主や火葬場のオンボウまで）対馬の新兵訓練所内務班で、抜群の記憶力で一目置かれるとともに、意味不明の規則の理由を質問して煙たがられる。戦場から帰還した教育係大前田軍曹には戦場の現実を知らされるが、彼の人間性と嫌悪感を同時に感じさせられた。
�△錣鵑僂�少年・少女 「トム・ソーヤーの冒険」（「ハックルベリィ」）とアラバマ物語
トム・ソーヤーとハックルベリ・フィンはミシシッピ上流の田舎町に住むアメリカを代表するわんぱく少年。
一方、深南部アラバマの田舎町に住むわんぱく３人組は、作者ハーパー・リー（スカウト）と兄、それにトルーマン・カポーテの小学校入学前後のこどもたち。近所に一人住み、めったに姿を現さない人物をブーという怪物にみなして、大声を出して挑発して逃げる遊び、弁護士の娘だが喧嘩っ早い少女だったハーパー・リーは男の子たちと取っ組み合いのけんかをする。（伝記によれば、仕立て下ろしの服を着せられているトルーマンをいじめる男の子たちとの喧嘩（みな裸足だった時代）だったとのこと）映画では、スカウトはもう小学生になったんだから喧嘩なんて子供っぽいことをすべきでないと思っていたが、と反省しながら繰り返していた。
ただし主題は弁護士だった父への回想なので、ノスタルジーにあふれている。
「アラバマ物語」1960年はピューリッツアー賞を受賞し、映画化は1962年。
「テファニーで朝食を」（母親がモデル）1958年、映画化は1961年。
同時期に田舎町の幼馴染の少年少女だった人物が有名作家になったのも珍しいことに違いない。
➂快男児 ヘンリー・フィールディング「トム・ジョウンズ」1749年 とショーロホフショーロホフ「静かなるドン」1940
フィールディングは英国近代小説の父と言うべき人物で、彼の後ディケンズやジェイン・オースティンやブロンテ姉妹、ジョージ・エリオット（ジョージは男子名だがペンネーム）など女流作家が続く。
一方、ショーロホフ「静かなるドン」はドン川下流域革命軍と反革命軍（皇帝派）の内戦を描く。丁度、今プーチンに侵略されているウクライナ近辺が舞台で、ドン・コサック（コッサクは日本で言えば屯田兵で、ロシア皇帝によってドン川流域に入植を許された農民兵）が親戚同士も敵味方に分かれて戦う悲劇を描いている。主人公は気性のさっぱりした青年で本来なら正統派快男児になるはずだが、ここでは敵味方に迷いながらみじめな最期を遂げる直前で終わる。作者も最後を見たくなかったのだろう。
翻訳者の解説では、スターリンが愛読していたとのこと。ショーロホフはリアリズムらしくどちらの味方でもないのだが、サディストのスターリンは主人公が苦しむところが気に入ったのか？
�げ�女児というべきがミッチェル「風と共に去りぬ」のスカーレット・オハラ
南北戦争で混乱するアトランタでたくましく生き抜く。（日本でも戦後強くなったのはナイロンの靴下と女と言われていた）
愛憎ただならぬ関係だったバトラー船長と結婚して娘も生まれたが、娘の不慮の死で二人は破綻し、バトラー船長も去ってゆく。
さらに、幼馴染で結婚相手をめぐる恋愛のライバル（スカーレットが負けた）でもあり、信頼できる同志でもあったメラニーが産褥で死ぬ。一人になってしまったスカーレットだが、「私にはタラ農場がある」とつぶやいて再び立ち上がった。
ここでタラは二義的に使われていて、アイルランド移民の一族にとって、タラの丘はアイルランドのケルト人の聖地、つまりアイルランドからの移民の心のふるさとを意味する。
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