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2022年05月03日21:05

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科学の物語(1) メノ・スヒルトハウゼン「都市で進化する生物たち ダーウィンが街にやって来る」草思社2020

 (原題 Ⅾarwin comes to town  How the urban jangle drives evolution)

 1枚目 表紙絵
 2枚目 マンハッタン今昔  ナショナル・ジオグラフィー
 3枚目 カラスの自動車利用 仁平義明  心理学ミュージアム・ブログ

 著者は1965年生。オランダ人、ライデン大学教授、専門は進化生物学・生態学。

 本書のテーマは、生態系工学技術生物が、いかにして生態系を変えて(新しい生態系を作って)、そこに集まって来る生物の適応と進化を促しているか、というものである。
 1.最初に登場するのはアリである。アリは数えきれない数で、子を産む女王アリのために迷路のような地下トンネルの巣穴に、食べ物を集め、保管し、中には植物を育てるアリもいて、とにかく人間の家やゴミ箱と同様にあらゆる種類の食べ物の集積所なのである。
 その食べ物を目当てに集まる虫たちは1万種にのぼるという。要するにアリにとっては泥棒なので見つかれば攻撃されて、逆に餌になってしまうはずなのだが、アリに仲間だと思わせてしまうフェロモンを出すのである。
 アリから餌を奪う方法は、いろいろあって、餌をかみ砕いて巣穴に戻るアリを待ち構えて、頭をなでて、餌を吐き出させるとか、一番図々しいのは、最高級の女王アリ用のえさの保管庫に侵入する虫である。むろん厳重に守られているのだが、仲間だと思わせてしまうらしい。
 この種の虫たちを好蟻性生物というのだが、何万年とかけてアリ(を騙して寄生できるように)に適応・進化したわけである。

 2.よく知られる生物にビーバーがいる。彼らは川にダムを作って一帯を水浸しの湿地帯にしてしまう。こうなるとオオカミなどは近づけなくなる半面、湿地を好む植物や泥の好きないイノシシなどが集まってくる。
 北米大陸のハドソン川河口には小山と小川の多いマナハッタ島(先住民の言葉で、多くの丘がある島という意味)があって、ここはビーバーたちの楽園だった。ところがヨーロッパから白人がやって来て、自分たちも住みやすいと考えて、ここを呼びやすいようにマンハッタンと改名し、世界一の大高層ビル街を作ったのである。
 ビーバーはいなくなったが(2007年に上流から流されて来たと思われるビーバーがダムを作ったとのこと)、マンハッタンから人間以外の生物が一掃されたわけではない。人間こそ究極の生態系工学生物なのだが、同時に好人性生物も集まって来るし、彼らは数世代で人間の作った生態系に適応・進化してしまう。ダーウィンは進化の過程を見ることはできないとしたが、しかし好人性生物のそれは見ることができるのである。

 3.蛾の工業暗化の発見と生態遺伝学派の創設
 発見された場所はマンチェスターで、1770年2万5千ほどの人口から1850年35万に爆発的に成長した。綿工業が英国の産業革命を牽引したのである。それが煙突の煙と霧が街を暗くしていた。
 1819年に、煤で黒くなった木の幹に泊まっていたシミフリガの翅が、本来は白地に黒の斑点から全体が黒になっていたのである。そして19世紀末にはブリテン島の全部が黒くなった。木の幹が白から黒になったので、白のままのは鳥に食われて変異した種が生き残ったのである。
 更に続きがある。公害問題が大きくなって、燃料や煙突が改善されると、シモフリガは元の白地を取り戻した。
 元々、蛾の翅は環境に適応するらしく、すでにダーウィンにそのことを指摘した人物がいたのである。しかし、ダーウィンは進化には時間がかかると信じていたことで、その手紙を保存はしておいたのだが対応しなかったらしいのである。
 ★海風注:ダーウィンは昆虫学者のファーブルに自分の進化学説に対する意見を求めていた。しかし、昆虫の習性を観察していたファーブルは、習性は変わりようがなく、神の完璧な創造のままだと考えていた。ファーブルが蛾の観察をしていれば面白かったのかもしれないが、彼は蜂が好きだったが、彼の小さい庭には蛾がいなかったのかもしれない。

 4.都市の中で孤立してそれぞれ進化する
 小さいネズミは道路を横断できない。ニューヨーク在来種のシロアシネズミ(ハツカネズミの一種)は、ニューヨークの大都市化とともに、彼らのもとの環境に近い公園ごとに孤立した。その結果、公園ごとにⅮNAが少しずつ違うのである。このままだったら、いずれ別の種になるかもしれない。
 この現象は、熱帯からフランスへ持ち込まれた小型のセキセイインコ(パラキート)でも発見されている。南フランスとパリで、さらにパリの南北でⅮNAが異なっている。
 ボブキャット(オオヤマネコの一種、小型だが家猫の2倍の大きさ)は、ロスアンジェルス郊外で住み始めた。ところが、ここは高速道路網が縦横に走っていて、ボブキャトは高速道路を渡ることができない(日本なら高架だから問題ないはずだが)。その結果、やはりⅮNAが変異していることが発見された。
 ★海風注:
 ダーウィンはガラパゴス諸島のフィンチのくちばしが、島ごとに違うことを発見した。食べ物になる木の実の硬さが違うのである。これが進化論の出発点になったわけだが、同様の進化が、人間の作りだした都市の部分ごとの違いに適応して起きていたわけである。

 5.技術は伝播する
 車にクルミを割らせるハシボソカラスが、1975年に仙台市にある自動車学校で発見された。その技術は、仙台市内から東北一帯に渡って伝播しているとのこと。他の国のハシボソガラスには、この技術はない。
 もともとハシボソカラスは、外国でもクルミを地上に落として割る習性があった。しかし、これを車にひかせて割るというのは日本だけである。箱根より西に多いハシブトガラスもしない。そもそもハシブトカラスには落として割るという習性もない。
 もっとも、地上に落としたことで必ず割れるとは限らない。その場合、何度も繰り返すことになるが、仙台のカラスがたまたま車に轢かれたクルミが割れているのに気が付いたらしい。ということで、ハシボソカラスの交流範囲でこの技術が広がったらしいとのこと。

 本種の著者も、そのカラスを見るために東北大学に短期留学したのだが、残念ながら、クルミの熟す季節ではなかっために、いくらカラスにクルミを差し出しても無視されてしまった。

 6.シーボルトのしたこと
 著者の住むライデンは出島の医者で医学塾を開いていたシーボルトが帰国後に持ち帰った資料を展示した博物館や日本植物園がある。
 ウィキによれば、シーボルト家はドイツの貴族で代々、医師や学者を輩出する家系だった。ところが、その中の一人が医者であるだけでは満足できないとして、日本へ行こうと思い立ったのである。冒険心があったのだろう。それに、当時は植民地などからヨーロッパにない植物で美しかったり、薬などになる植物を発見して一儲けしようというプラント・ハンターがたくさんいたらしい。シーボルトもその一人だった。
 ということで、仙台の町を散歩する著者はライデンで見慣れた植物をたくさん発見した。むろん、もともと日本のものだから当然なのだが。
 で、世界を侵略した日本の植物は、イタドリ(スカンポ)、藤、ハマナス、アジサイ、そして夏蔦(アメリカではボストンツタと名付けられた)が有名である。このうちツタはアメリカ東部の名門大学を象徴するアイヴィーリーグになったのだが、元はと言えば、シーボルトなのだそうである。
 ということで、著者は外国種が入って来てもいいじゃないかという思想の持ち主である。確かに、昔になったがセイタカアワダチソウとかセイタカアキノキリンソウとかが日本の土手や空き地を占領して大騒ぎになったことがあった。今では、あまり目立たなくなったが、寄生する菌類のせいで制御されたのだろう。これも菌類の進化の結果かもしれない。

 ★海風:まとめ
 かなり前のことだが、今西進化論を論破すると主張して英国の学者が京都大学に短期留学したことがある。今西進化論というのは、ダーウィンの優勝劣敗、弱肉強食による進化論を否定して、むしろラマルクの用不用説に立って、必要な時が至れば、種は一斉に進化するというもので、端的に「立つべき時が来て、その地域のサルは一斉に立って人となった」となる。
 本書の著者に沿って言えば、地域の環境が変化した時、その地域の多くが変化に適応して進化する、と言えるだろう。
 ⅮNAの変異は、むしろ想定されていて柔軟に適応するらしいのである。蛾の例のように、必要に応じて、黒くなったり、また元の白に戻ったりする。つまり、これまで想定されていたような、バラバラなたくさんの突然変異の中から適応できた変異が残ったということではないということである。
 たしかに、でなければ単細胞生命の誕生から始まって、多種多様な環境に応じて、多種多様な種へと分化することはできなかっただろう。むろん、その過程で化石としてしか残っていない種も多いのだが。
 むろん、今西錦司もダーウィンのすべてを否定していたのではなく、優秀な単一の変化が勝ち残ったということはありえないと言っただけである。今の段階でも、ⅮNAは柔軟に必要な変異をするらしいとのことだが、いずれもっとはっきりした仕組みが分かると思う。
 で、本書の主題は、人間の作る都市は生物多様性を高めこそすれ、減らすことはないということであった。
 そういえば、数日前にNHKで、都市のワイルドライフという番組があった。東京にもたくさんの野生動物が住んでいると。
 私の住む土浦市は常磐線の地方都市だが、私の家の庭の渋柿が真っ赤に熟れるころ、3年間ほどだがハクビシンの夫婦が真夜中にやって来たことがある。彼らの手は細い枝をつかむことができるので、爪を立てて登るだけの猫よりよほど上手。多分、電線を伝って屋根から柿の枝に移るのである。ところが大屋根から落ちたり、車にはねられたりして家の周りで2匹が死んだ。そのせいなのか、ここ2年ほど現れることがない。


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