１枚目 富嶽三十六景（神奈川沖）すみだ北斎美術館 日本の自然神を代表して
２枚目 板橋不動院（つくばみらい市、取手駅の近く） 安産の神様である。
茨城見聞録ブログより
３枚目 大山神社（伯耆大山）奥宮 途中に大山寺がある。明治以前は一体だったわけである。 トラベルjpブログより
著者は1949年生。東大印度哲学科卒、東大教授。
序章
哲学研究では西欧という厚い壁とキリスト教という巨大な伝統が背景にあり、仏教研究ではインドという底知れぬ世界が背景となっている。
それに対して、日本では自国の過去の思想を思想史として定着させられなかった。
丸山真男は言う。過去が自覚的に対象化されて現在の中に止揚されないために、過去が現在の中に滑り込むのである。
★海風注：弁証法はソクラテスのように個人の間で議論を発展させるためのもののはず。それを国民集団に適用して、一国の歴史が（正しく）発展するなどという根拠不明で実証不可能な歴史観はそろそろ止めるべきだろう。
丸山真男は止揚されない国民レベルの無意識が行動を規制しているのを指して「執拗低音」というのだが、これはどの民族・国民にも存在する独自の国民性のもととなるもの。
つまり釈迦が唱えて、アジア各地に伝播した仏教史は、それぞれの国民性の土壌で変容し、育ったり、枯れたりしたということ。
仏教には定着しにくい一面がある。
「空」という中心的思想は、各地に大きな衝撃を与えたが、元のままではなく、各地域の伝統思想（インドではヴェーダ、中国では儒教）に吸収されて安定した構造を得たと考えられる。
★海風注：中国では儒教というより道教ではないのか。「西遊記」では石猿の孫悟空などの仙人が仏教に仕えて成仏することになっていたが、「封神演義」では人間の仙人の天下が描かれている。
日本では、著者の末木氏が言うように、神道、あるいはその元となる自然信仰に吸収されたに違いない。形は寺で仏像なのだが、中身は本来のインド（上座部、小乗仏教）ではないし、ガンダーラの大乗ともかなり違っている。
１．聖徳太子と南都の教学
仏教の受容
仏は他国神、客人神（まれびとかみ）として受け入れられた。
聖徳太子は日本仏教の祖として崇敬され、伝説化された。つまり、実在のナザレのイエスがキリスト化されたのと同じような変容である。
国家仏教と民間仏教
741年（天平13）国分寺・国分尼寺建立の詔。百姓をたぶらかすとして追放された行基が大仏建立の活躍で大僧正に抜擢された。
天武天皇は仏教を大幅に取り入れた一方で、天照皇多大神を頂点とする神祇体制を確立した。それを記紀神話としてまとめたのである。
国家仏教（学問仏教）の南都六宗とは
インド仏教は上座部（小乗）と大衆部（大乗）に根本分裂したのち、上座部はさらに部派に分裂していった。日本に導入された南都六宗のうち、部派仏教から派生したのが�ゞ羲暴 瞥�識思想による）と�∪�実宗（空による）である。そしてすべての仏教の基礎の�ＮЫ，任△襦�
大乗経典からのものは、�ぁ峩�」を説く三論宗（般若経典）で、成実宗を属宗としている。
興福寺を中心とする�ニ〜蟒，詫�識思想を中心としていて、倶舎宗を属宗とする。
東大寺を中心とする�Σ攜圭 焚攜祁弌�
ということで、事実上４宗のようだが。
第２章 平安仏教 密教と円教（天台宗）
平安仏教は貴族の祈祷仏教であり鎮護国家のための仏教で、鎌倉新仏教が哲学を持つ庶民仏教と評価されてきた。
しかし最澄は、修行面で易行化し、大乗戒によって僧の資格を簡易にしている。この動きをさらに進めたのが親鸞だった。
最澄は円満完全な教え（天台宗の中心となる法華経は、小乗の指導者だった釈迦の直弟子たちも取り込んでいる）、大乗戒、禅の行法、密教を導入し、更に円仁が浄土教を導入したことで、比叡山延暦寺は仏教の総合大学となった。
大乗仏教では、人は誰でも悟れる（仏に成れる）とするが、南都の法相宗は悟れない人もいるという現実主義に立っている。
密教は仏教なのか
原始仏教以来、永遠の存在はないとする「空」の原理を中心にし、それは大乗仏教にも引き継がれていたのだが、密教では大日如来は永遠の宇宙的実体である。
しかしながら、日本人はこの現象界の外に絶対神を立てたり、イデア的世界を認めず、現 象世界をそのまま肯定するアニミズム的世界観を持っている。
また、絶対者（自然神あるいは死者の魂など）と合一して超能力を発揮するシャーマニズムの要素もある。
★海風注：
誰でも悟りを開いて成仏すれば生々流転する輪廻を離脱して仏となり浄土を開くことができる。大日如来との違いは、宇宙レベルの浄土か、一人の浄土かの違いだけ。ただし、阿弥陀仏の極楽浄土は希望者全員を受け入れることが可能とのことなので地球レベルかもしれない。
ユダヤ・キリスト教の神は、世界の創造神であると同時に、この世に姿を現わし一般庶民と語る人格神（教育者）でもある。ただし、その二重人格は最初からではなく、ユダヤ教のヤハウェとナザレのイエスを、後のキリスト教が合体させたために起きたことなのだが。
また、キリスト教の場合、天使や聖者も認められたので、神が直接にこの世に現れることはなくなって、使者として天使や聖者（菩薩に該当する）が遣わされることになった。聖母マリアの神格化と併せて多神教化したのである。
サンタクロースやハロウィーンはケルトかゲルマンの神と祭を取り入れたもので、元の民族宗教と融合して行っている。
第３章 末法と浄土
道長の死後しばらくして末法が始まった（1052年）と信じられた。末法に備えるために阿弥陀仏の浄土教が盛んになった。源氏物語にも登場する源信「往生要集」や、頼道の鳳凰堂、親鸞に影響を与えた「末法灯明記」などにみられる。
親鸞「教行信証」は末法においては、自力の修行（行）でなく阿弥陀仏への絶対的帰依（信）が大事であるとした。
浄土教を比叡山に導入したのは最澄の弟子円仁であるが、これが一般民衆に広がったのは空也（903―972）による。奈良時代の行基の系譜に連なる「阿弥陀聖、市聖」である。浄土を観想する観想念仏は難しいが、空也の口誦念仏は誰でもできるものであると同時に、古代からの呪術的要素もあって民衆に広く受け入れられたのである。
★海風注：末法とは恐怖の大王が降臨するというノストラダムスの大予言のようなものか？ 今の朝ドラ（カムカム エヴリボディ）で使っている。
ただし、民衆レベルでどれだけ真剣に末法の世が恐れられたのか疑問である。行基、空也、一遍など民衆の人気はあったろうが、一種の巡回サーカスのようなものだろう。仏教史でも網野善彦のように民衆レベルの実態を示す資料を探すべきだと思う。
大乗仏教では、すべての人が仏性を持つとし、煩悩即菩提、生死即涅槃と主張していたが、天台本覚思想ではすべてが悟りを開いているとする草木国土悉皆成仏を提唱した。
本覚思想は汎神論的で、神道の思想に通じている。仏教から見れば、きわめて安易な現実肯定に陥る危険がある。
本覚思想から見れば、この世界がそのまま悟りの浄土なので、浄土教の言うような極楽浄土が別にあるわけではないとする。また、阿弥陀と大日如来を同一とする。
★海風注：
法華経によれば、この世を浄土にするために仏陀が修行し、弟子たちが法華行者として活動しているとしている。
親鸞は本覚思想に連なるので、阿弥陀仏への「信」があれば極楽浄土に迎えられるとするが、日蓮は法華行者による「行」が必要だとする。
宮沢賢治も、著者の末木氏と同じ考えだったようで、宮沢家が京都にいた江戸時代以前からの家の信仰だった浄土真宗を捨てて、法華行者になるために日蓮宗に転宗した。
第４章 鎌倉仏教の諸相 略
第５章 近世仏教 略
第６章 神と仏
本居宣長は「神とは、恩恵をもたらすが、怒れば畏き（恐ろしき）もの」と定義している。
民俗学によれば最も重要な神は先祖の死者を祀った先祖神である。
仏は他国神であり、仏像は依り代である。
律令体制が氏族社会を温存して、天皇を頂点とする中央集権体制を作った。仏教は氏族の頂点に立つ国家の神として位置付けた。
仏教を中心とする神仏習合があり、逆に伊勢神道による統合があった。
一方で、原始信仰を基にした役小角の修験道が仏教（密教）に取り入れられた。
終章
傾向として、現世離脱的要素が崩れて出家者が世俗化した。その根拠となったのが日本古来の現世主義的な本覚思想（自然信仰、アニミズム）だった。
遠藤周作「沈黙」では、日本は宗教者の根を腐らせる沼地だと批判する。遠藤はまじめなキリスト教徒らしいから仕方がないが、民俗学を重視する著者の末木氏まで同調することはないはず。
★海風：まとめ
著者の末木氏は、仏教はもとよりキリスト教など「人格神」のことまで研究したのだろうが、「人格神」が最高の宗教だというのはキリスト教の宣伝にすぎないのでないのか。
また、歴史を弁証法で把握しようというのは無茶。
ということで、ハインリッヒ・ハイネの「流刑された神々」のように、民俗学をベースにして宗教を理解すべき。
これは、小説の著者と読者の関係に似ていて、文学史は作家史ではなく、作家と読者の応答史であるごとく、立教者（宗教学者、布教者）と生死に関して何かの信念・信仰をもつ一般民衆との応答史が宗教史である。立教者の教えが根腐れを起こしたというなら、その宗教に適応力、変容力、進化力がなかったということだろう。
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