昨日の朝刊に時々掲載される「想う」シリーズにトッド氏の想いが掲載された。なんとなく西部邁と似たような思想遍歴の人だなと思い至って興味深かく感じた次第。
１．禁止を禁止
1968年５月とはフランスの５月革命の時である。トッド氏は高校生で、共産党系青年組織に属して、校長を面罵してドゴール政権打倒の運動に参加した。
ゼネストで１か月間フランスはマヒ状態だったが、社会規範も上下関係も消えて、したい放題を親も支持してくれた。交通もマヒしたが、ヒッチハイクですぐに車が止まってくれた。あんなことは二度となかった。
しかし、大衆は嫌気がさしてきて、６月下旬の選挙でドゴールが勝利し混乱は収束した。
この学生の反抗はアメリカのベトナム反戦をはじめ、日本や西ドイツにも波及した。フランスの場合は、習俗や性の革命で「禁じることを禁じる」が運動の標語になっていた。
☆海風：日本で似ているのは60年安保の方だったのではないか。この時に全学連と共産党が決裂したのだし。岸政権総辞職後の選挙で、人気のあった浅沼社会党委員長の暗殺事件があったにもかかわらず、池田政権が勝利した。あの時、社会党関係者が、浅沼さんへの同情票で、なんとか三分の一を持ちこたえたと言っていたとのこと。
２．二つの変化
68年５月はフランスの分岐点になった。
�ゞ�産主義の終わりの始まり。共産党の両輪だった学生・教師と労働者の間に亀裂が入った。共産党は衰えて社会党が伸長した。
�⊆�己陶酔、自己本位と言える個人主義が勝利し、新自由主義の土壌となった。この結果、共産党とカトリック組織という伝統的組織が解体し始めたのである。
変化の帰結が昨春のマクロン大統領であり、左右両翼の既成政党が自壊した。フランスはEU（その問題あるユーロ貨幣）を仕切っているドイツに追従して自壊しつつあると見ている。50年前の５月革命の時に、明るい未来を夢想したが、今では、明日は一層悪くなると感じている。
☆海風：それにしても共産党が伝統になるのか？ 硬直の間違いではなかろうか？ いずれにしろ個人主義が、多分、無政府主義的なのだと思うが、社会を制覇したということなら硬直的組織は解体するほかなかったのだろう。
３．倒錯の世界
英国は分別の国だが、今は離脱交渉の中で混乱している。勢力均衡を考えるならロシアとの関係を強化すべきだが、スパイ騒動で対ロ関係は最悪になっている。
米国では、トランプ大統領をめぐって冷たい内戦が起きている。イラン核合意から離脱し、逆に、北朝鮮の核保有を黙認しかねない。
中国は新生児の男女比のゆがみで、日本は少子高齢化で未来は不安定。
一番戦略的なのはロシアだが、専制的民主主義はありえないことである。
☆海風：イギリスが「敵の敵は味方」とばかりロシアに接近しなかったのは正しい選択のはず。むしろ、トランプを挟んで米英日の同盟復活のような写真があったが。
ユーロ離脱は、留まっていてはドイツに利するだけという判断だろう。
４．失われる心性
1789年の大革命以来、反抗はフランスの伝統であり、無政府主義と平等主義と寛容はフランス人の心性の主要要素だった。それが最大限に発揮されたのが、５月革命だった。今、その心性は失われてしまった。
☆海風：まとめ
革命が伝統になるというのは語義矛盾だろう。トッド氏の錯覚だと思われる。確かに、個人主義の行きつくところにマクロン大統領が登場したのに違いない。これはむしろ革命幻想の終わりではないのか。
フランス革命の申し子だったナポレオン以降、フランスが国際政治を動かしたことはない。
また個人主義、自由主義が革命を呼び込むこともあり得ない。
結局、５月革命はカトリック教会の権威を破壊しただけでないのか？ アメリカのヒッピー文化のようなものだったのではなかろうか。もっとも、カトリックも巻き返すかもしれないが。共産党とは伝統が違うし、そもそも同列に並べるのはどんなものか？
ところで西部氏との共通点だが、彼はマルクス主義は（そして安保闘争は）間違っていたが、それでも青年時代にマルクスに惹かれない人間は倫理感がない、という趣旨のことを言っていた（正確には思い出せない）。
しかしこの考え方は飛躍であろう。社会的弱者への同情や救済は漸進的に可能なのであり、それを金持ちから奪って達成しようとする革命主義こそ倫理的ではない。結局、社会主義革命は、労働者が消費者としての側面を持てば持つほど基盤を失っていく。
中国の現在の成功は一時的なものだろう。確かに、企業の自由化で消費者を満足させたに違いないが、これも一定段階だろうし、次には政治の自由化を求めるに違いないのだから。
トッド氏も西部氏も、思考の基盤が矛盾をはらんでいる。これを戦前のイロニーと言いたくなるのだが、この辺りはまだ理解が十分と言えない。
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