小川軽舟「現代俳句の海図 昭和三十年世代俳人たちの行方」角川学芸ブックス 平成二十年（2008）を読んだ。この本の目的は副題のとおりで、１０人の俳人の句からそれを明らかにしようとするものであるが、私の場合、それを読み取る力はないのでぎりぎり理解できる句から自身の月並みを改善することにある。
第２章 中島道夫
「他所ゆきの體通して春の服」
これは分かった。通常、他所ゆきは服のことだが、ここでは體のこととしてひねりがきかせてある。これが作者のことなら、髭をそって、髪を整えて春の服に通す。よほど大事な場所へ行くことになり緊張しているのか。しかし、やはり女性の華やかな體がふさわしいようだ。
第３章 正木ゆう子
正木は、橋 �寮弌�1903-92）「階段が無くて海鼠の日暮れかな」を高く評価しているという。私の解では、海鼠用の階段がなくて、日が暮れてしまい途方に暮れているのであろう。そういうもどかしい夢を見たのかもしれない。正木は読売俳壇の選者で、私も投句していて、いくつか入選したことがあったが、今はかみさんがお世話になっている。
「あをあをと山河を流し鷹渡る」
鷹の目で、後ろへ飛び去ってゆく青い景色をみている。私も新幹線でよく見たはずなのだが。
「林檎投ぐ男の中の少年へ」
女の中の母が投げたのであろう。
「潮引く力を闇に雛祭」
ひな壇の赤い毛氈が隠している闇。そこに潮（うしお）引く力が籠っているのであろう。引き潮、満ち潮は女性を象徴してエロチックである。
第４章 片山由美子
「数ふるははぐくむに似て手毬唄」
思い出せば子供の頃、近所の女の子が数え唄を歌いながら素早く器用している手毬を茫然と見とれていた。ひとつひとつはぐくんでゆくしかないのだ。
第５章 三村純也
「春風を回してメリーゴーランド」
これを著者は月並みの見立てと切って捨てた。実は、これは私もやったことがある。
★冬晴を回して発電用風車 落選。月並みだったのだ。確かに、どこかで見たような二番煎じの感はあった。
第６章 長谷川櫂
「冬深し柱の中の濤の音」
真冬の荒海の波の音が家を支える柱の中にまで侵入している。三匹の子ブタのようだ。
「水の色すいと裂いたるさよりかな」
さよりを水に見立てている。こんなのをみると、二番煎じ、三番煎じをやりそうだ。
第７章 小澤 實
今、私が投句している先生であるが、初めて読んでみて難しいのに参った。
「神の旅寒流の魚色深む」
季語は神無月なのだろう。出雲への神の旅にふれて魚が成熟していくのだ。
第８章 石田郷子
「さへづりのだんだん吾を容れにけり」
なじむのに時間がかかる。私などその前に出てしまいそうだ。
「教会のやうな冬日を歩みをり」
きびしくもやさしい冬日なのだろう。教会の中に入ったのは、子供のころに一、二度だけだが、アルビノーニ「アダージョ」を聞いていると、ステンドグラスの薄暗い光の中にいるような気がしてくる。
「春潮を胸のたかさと思ふとき」
正木の句と同じく潮はここでも女を表している。胸がたかぶってくる。「私の城下町」では「心は燃えてゆく」と歌っている。
「さざなみの寄せてをりたる冬木の芽」
金子兜太「梅咲いて庭中に青鮫が来ている」に近いか。長谷川句のように柱の中にも来るから油断できない。というか、油断しないで感性を開いておかないと、月並みに落ちるのである。
第１０章 櫂 未知子
「佐渡ヶ島ほどに布団を離しけり」
これが性愛を詠んでいるのだとのこと。これは、私にはでない。
以上、出そうで出ない句を集めた。全く出ないのははずした。
ログインしてコメントを確認・投稿する