芭蕉に「行く春を近江の人とおしみけり」があって、プロの俳人が好きな句としてあげているのを見たことがある。私には、何がいいのかさっぱり分からないのである。それがどうした？ 近江の人に特有の惜しみ方があるのか？
「去来抄」には、近江大津の芭蕉の門人尚白が、「近江の人」でなくても、どこの人でも同じでないかと批判したことに、去来は近江の春は霞にぼやけてひときわ春を惜しむ気持ちになると芭蕉を支持したところ、芭蕉は喜んで、昔の人もそうだったのだ、と答えたとある。
去来のような忠臣もいないと、尚白ばかりだと先生やっていられない。
と、切って捨てる前に考えることがある。芭蕉の言う「古人、昔の人」とは誰のことか。琵琶湖の東側は近江商人を輩出した地ではあるが、つわものどもの夢の後でもある。古くは大友皇子の敗れた壬申の乱。木曽殿最期。平宗盛親子処刑。六波羅を逃れた北条一族の最期の地。芭蕉の主君藤堂家の出身地。そして、関ヶ原も地続きであった。
関係ありそうなのは、藤堂家と、どういうわけか好きだったらしい木曽殿の大津義仲寺。「木曽殿と背中合わせの寒さかな」の縁なのか、芭蕉の墓もここにある。
しかし、風雅の道とは縁がなさそうである。ということで思いつくのは壬申の乱に滅びた都を歌った柿本人麻呂� 岾斛押覆気気覆漾砲了峅譴凌漂蝓々�きあれど 大宮人の船待ちかねつ」、�◆屬気気覆澆了峅譴梁膓福覆�おわだ） 淀むとも 昔の人にまたも逢はめやも」
�，砲蓮�楽、辛、幸と反対語が交錯する。船は来なかった。
�△砲蓮⊃紊聾気里泙泙世�、昔の人、大友皇子には逢うことができない。
さらに、��「物部の八十氏川の網代木に いさよふ 波の行くへ知らずも」�ぁ崔験い粒ぁ〕赦伽蘢察‘鬚�鳴けば 心もしのに古思ほゆ」
��もののふ達もついにどこへ行ったら良いのか分からなくなった。
�だ箴Г箸いΔ戮�だろう。
芭蕉が一緒に春を惜しみたい昔の人はここにいるのでなかろうか。風雅の道は敗者を悼む心に始まる、ということか？ 美意識だけではないらしい。
ログインしてコメントを確認・投稿する