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2013年01月28日14:38

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ファンタジーの往還(16) ジム・ボタンの機関車大旅行からファンタジーエンへ

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 黒人の孤児ジム少年、機関士ルーカス 機関車のエマ
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 竜に化けたエマを囲む竜たち

 ミヒャエル・エンデ「ジム・ボタンと機関車大旅行」岩波書店1986(原書1960)は、エンデの処女作で、後の1979「はてしない物語」を思わせるようなイメージが詰め込まれている。原題を直訳すれば「ジム・ボタンと機関士ルーカス」になる。さらに内容的には、愛する機関車エマから離れたくないために故郷のフクラム国を出たルーカスの冒険物語である。多分、ジム少年は後編の主役になるのだろうが、読んでいないので分からない。
 ジム少年は赤ん坊の時、住所違いでミセス・イッポンバあての小包で送られてきたのだが、名宛て人がいないので、ルーカスにかわいがられて育った。ところが、国を出ると聞いていっしょについてきたのである。機関車エマをヨットにして海を渡り、着いた国でお姫様がさらわれた竜の国とジムが本来行くはずだったところが同じだと分かり、ジムの身元調べとお姫様救出の旅に出る。
 狭くてこだまの反響する谷、蜃気楼に幻惑される砂漠や火山地帯など「はてしない物語」のモチーフを思い出させる。
 砂漠で出会う「見かけ巨人」は実は普通の大きさなのだが、遠くへ行くほど巨大に見えるので、誰も恐れて近づかない。火山地帯で出会う半竜は竜とカバの混血児で竜の仲間と認めてもらえない。それぞれに悲しみを背負っている。
 実は、目的地の竜たちも元いた場所にいられなくなってこの火口の街へ集まってきたのである。大威張りに見えるのだが実際は絶滅危惧種、ここを追われたらもう他に行くところがないのだった。つまり、ここが滅びゆくファンタジーエンの最後の砦なのである。
 竜に化けたエマに乗って、とうとう、ミセツ・イッポンバの家にたどり着いたのだが、驚いたことにそこは学校で竜のミセス・イッポンバは先生だった。彼女は金で子どもたちを海賊から買い取って教室を開いていたのである。子どもたちを机に縛り付けて、無理やり教えている。何のために?・・・どうやら彼女は良いことをしているつもりらしい。
 お姫様は小公女セーラのような秀才で、ミンチン先生を、いやイッポンパ先生を悔しがらせていた。方や、ジム少年は字など読めなくてもよいなどと「ハイジ」のペーターみたいなことを嘯いている。
 ルーカスはミセス・イッポンバを捕虜にして川を下り、さらわれていた子どもたちを連れて王様のところへ凱旋する。
 竜のイッポンバはルーカスにこのまま1年間眠らせてくれと頼む。そうすれば、叡智の竜になれるのだと。つまり、彼女は叡智を求める心は良かったのだが、手段が間違っていたのである。
 全体のテーマは「孤独とそれゆえになお友を求める心」のように思える。フクラム国とは王様を含めて4−5人の、「星の王子様」のような国なのである。そんなところになぜ機関車が必要なのか、必要だったのは「少年」のエンデであったらしいが。それに、多民族と多文化のシャッフルされたような状態。作家のエンデは、多分、そう言うあなたは、自身の存在理由を知っているのか、と反問するに違いない。
 存在理由?若いころは悩んだように、かすかに思い出されるが、今となっては、よいと思ったように存在を続けることだと、それ以外に思いつかないのである。
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