テレビ欄をみたら「永遠のマリア・カラス」とあったので歌番組かと思ってつけたら映画だった。監督フランコ・ゼフィレッリ、マリアはファニー・アルダン2002年。20世紀を代表するとされるオペラ歌手マリア・カラスは1923-1977の生涯で、亡くなったのは53歳だった。監督は生前のカラスと親交があり、思い出とフィクションを交えて製作したとのことである。
カラスは声が出なくなり、愛人の海運王オナシス(ジャクリーヌ・ケネディの夫となっていた)にも死に分かれ、日本公演を最後に引退していたが、友人のミュージシャンでプロモーターのラリーが、映画の企画書を持ってやってくる。声は全盛期のものを使う、口パクでオペラをとろうというのだ。
そんなインチキはできないと、カラスは怒るが、まだオペラとしてやったことがないカルメンならと引き受けることにした。ラリーはカラスの代表曲の椿姫、ルチア、ノルマなどを想定していたのだが、カラスとしては、それではみじめな気分になるのと、新しいことに挑戦して復活したいという思いがあった。
気分屋にして妥協のない、しかもドタキャンのカラスを警戒していた出資者たちも、ラリーの熱意に押されて賛同し映画製作が始まる。映像の中のカラスとそれをチェックしているカラス。ファンの前に堂々と現れるカラスと一人自信をなくしているカラス。映画はずっとこの二重のカラスで進行してゆく。
映画を見ながら、なぜか美空ひばりとだぶって見えた。映像自体の二重性に影響されたのだろうか。ウィキで確認すると、カラスは53歳で、ひばりは1937-1989の生涯で52歳で亡くなっている。最後は不死鳥の姿で歌っていた。まさに永遠のひばりだった。
カルメンはうまくいった。次はどうする、ということでカラスはトスカなら、という。今までうまく歌えなかったから挑戦したい。しかし、自分の今の声で、という。疑うラリーに、カラスは「トラスト・ミー」と言ったので笑えた。宇宙人鳩山首相を思い出したので。
栄光は同時に同じ深さの苦悩をもたらすらしい。私にできることは、ただ黙って見送るのみである。
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