岡本隆司1965生、京都府立大学教授、中国近代史
１枚目 梅棹忠夫「文明の生態史観」
２枚目 ソルディアナ。今の東西トルキスタン。
３枚目 中国の南シナ海進出（防衛省2015年資料） いずれもネットから
本書はメソポタミア（肥沃な三日月地帯）に発生した古代文明が、いかにして世界に拡散したかという面から新しい世界史の見方を論じたものである。本書によれば、メソポタミアが東に発展して古代エジプトやギリシャ文明、さらにユダヤ教、キリスト教そして古代ローマ文明となり、西にはペルシャ帝国、アレキサンダーの帝国からシルクロードを通って黄河文明へと拡大発展し、日本はその東西の果てと言う位置づけになる。
学校で習った世界史では世界四大文明ということで並列に並んでいたのだが、岡本によればメソポタミア一極だとのこと。
そして、世界文明の発信地になれたのは、メソポタミアに遊牧民（砂漠）、農耕、商業の三つの要素が揃っていたからだという。生産力の高い農業の開始が文明の発生に欠かせないのだが、それを伝播するのは商人である。さらに盗賊団からの商人の護衛者として強力な軍事力（騎馬）を持つ遊牧民の存在。
太帝国とは、征服した結果でもあるが多民族を統合し、商業で結び付けて軍事力で安全を守る。さらに同一行動をとるように、精神的には宗教やイデオロギー、国際法で統合するものと言えそうである。
メソポタミアの東方では地理的に広いせいもあるのだろうが大帝国が興亡を繰り返している。一方、大帝国をつないでいたのは、サマルカンドを中心とするソグド人の国ソルディアナだった。彼らはペルシャ帝国の周辺部にいたイラン系商人だった。後に、東から西へと移動してきたトルコ系（イスラム）の支配下にはいり、現在ではソレディアは西トルキスタン、中国のタクラカマンの東トルキスタン（ウィグル自治区）となっている。
メソポタミアの西方（地中海周辺）に文明を進めたのはフェニキア人である。フェニキアの一番古い遺跡がスペイン沿岸のイビサ島にあるとのこと。ギリシャ神話によれば、クレタの王（牛に化けたゼウス）がフェニキア王の姫（ユーロペ）を迎えて、ヨーロッパの名称とアルファベット（フェニキア文字）をもらったのである。
そして、ポエニ戦争で勝利したローマがフェニキア人と合体してローマ帝国となった。
で、結局、大英帝国が世界の覇権国となった。その根拠となったのは、法律の支配、産業革命、保険、株の取引などによる企業組織の発展があったことだという。これがあって、安心して取引ができるのである。たとえば、イスラムはイスラムに対して嘘をつかないとのことだが、それでは国際性がない。シェイクスピア「ベニスの商人」では、裁判官のポーシャはユダヤ人のシャイロックに公平に裁判したのである。契約を一字一句違えずにという条件で、結局シャイロックの敗訴となったのだが。
★海風：まとめ
１．メソポタミアに始まった文明の世界史は統合の方向へ向かっている。
�．殴襯泪麑餌欧梁膂榮阿覆匹�有名であるが、飢饉や貧困を逃れるために豊かな地域ローマ帝国への実力移動である。
�⇔�通経路の拡大のための帝国建設によって。
その手段は、
�…觜餬�設のためには科学技術の発展（軍事力に結果する）
�⊃諭垢魄�き付ける豊かさ。
�９�く強い信仰を集める宗教（キリスト教、イスラムなど）や理念（イギリスの民主主義、アメリカ・フランス革命の理念）、更には共産主義のインターナショナリズムなど。
�つ汗阿砲茲觜發づ�治能力や独裁による強い統合力
梅棹忠夫「文明の生態史観」によれば、
古代においては、高い生産力は農耕地帯で、強い軍事力は乾燥地帯の遊牧民のもので、あった。
ただし中央アジアには大帝国が作られたが、一方で破壊と建設の興亡を繰り返し文明が継続的に蓄積しながら発展することはなかった。結局発展したのは、中央アジアから離れた西ヨーロッパ（ユーラシアからみれば西方の半島の先端部）と極東の島国の日本であった。
本書の岡本はメソポタミア文明を文明中心に置いたうえで梅棹の理論を継承している。
２．日本の位置づけ 日本史と世界史が交差した時
世界史の全貌を要約できないし、知識も足りないので岡山氏の理論を日本史に適用した時に何が見えてくるかを考察した。
１） 白村江の戦い 日本・百済連合軍と唐・新羅連合軍の戦い
南北朝が北朝の隋・唐によって統一された余波として起きた。要するに北朝が東アジアを勢力圏に収めることを目的とし、まず高句麗の、続いて日本の敗北によって成功したのである。
それまでの日本は倭の五王にみられるように南朝、つまり卑弥呼の相手国だった魏・晋の後継国である南朝だった。
聖徳太子は隋との対等外交を主張したが、当然隋の煬帝を怒らせ、その後継国の唐は新羅に与した。北朝は基本的に鮮卑族の拓跋氏が王権を握っていた。
敗戦の結果として日本は定期的に遣唐使を派遣して、実質的に朝貢国であることを誓約していたわけである。その対価として、唐やシルクロードからの文化・技術を導入して国力を蓄積した。太平洋戦争での敗戦後に日本はアメリカと朝貢外交を結び（一部からは「永続敗戦」などと謗られているが）、一度はアメリカに並ぶかと見えた時もある。今の中国のように。しかし、激しいバッシングを受けた。今の中国が受けているのだが。歴史は繰り返すのである。
２．世界帝国モンゴルの東進（元寇）
西進はゲルマン諸国連合軍が撃退した。
言語学者の渡部昇一は歴史にも造詣が深く、もし鎌倉幕府でなく後鳥羽天皇の平安朝が続いていたら元軍を撃退できなかっただろうと述べている。怖さを知らない若い時宗だったからこそ全面対決に持ち込んだのである。
御家人組織の軍事力と恩賞をあてにした忠節がものを言ったわけだが、北条時宗が踏ん張ったのは、ここで妥協すれば征夷大将軍の名が廃ると思ったからに違いない。その意味で、天皇家の権威は生きていたと考えられる。
ついでに言えば、徳川慶喜があっけなく大政奉還して征夷大将軍職を辞任したが、これも西欧諸国の軍を撃退する力がないこと、つまり征夷大将軍の名を負うことはできないとの自覚があったからだったに違いない。それで自分が主導して幕府ではない政権を作ろうとしたのだろうが、そこを岩倉具視などに付け込まれてしまった。順序としては、まず新しい政権を作ってからにすべきだったのだろうが、孝明天皇との意思疎通がうまくいかなかったのだろう。天皇は決して反幕府ではなかったし、京都守護職の松平容保とは信頼関係にあった。誰かが妨害していたのだろう。
３．豊臣秀吉の朝鮮征伐
平川新「戦国日本と大航海時代 秀吉・家康・政宗の外交戦略」中公新書1918
明・朝鮮連合軍に敗れて撤退し、結局、豊臣政権も崩壊した。
平川によれば、ポルトガルとスペインの日本進出に対して、商業面では日本の博多商人や堺商人も南方諸国との交易を開始したが、秀吉は東南アジアを植民地としてゆくスペインの軍事力に危機感をもち、逆に日本が明を征服できることを見せたかったらしい。
家康は全方位外交で外国と戦争する気はなかったようだが、貿易には熱心だった。しかしスペインがキリスト教の布教にこだわったために、貿易だけとするオランダに集約されることになった。
スペインが軍事的に日本を占領しようとしなかったのは、天下統一の過程で日本の軍事力が高くなり、その頂点に秀吉や徳川幕府が君臨し統制したことで、断念したとのこと。
４．明治維新前後から日清・日露戦争
18世紀末（江戸末期）に交易の要求が激しくなったことで、積極的に欧米化することで独立を保った。
中国（清）が中途半端な対応をして半植民地になったことを教訓としたのである。
その最初が朝鮮を開国させようとした西郷隆盛の征韓論だったわけで、日清戦争で清の崩壊を早めることとなった。
５．満州事変から太平洋戦争
第二次大戦での日本の敗北で中国は共産主義国家となり、また閉鎖的な国家体制を敷くことになり、今に至っている。
その間に、ソ連の崩壊があり、しかし特異なプーチン体制になった。
日本は敗戦によって政治的には欧米化を達成したことになった。
マッカーサーの助言者だった日本生まれの歴史学者（E・H・ノーマン）は講座派の羽仁五郎の弟子だった。彼ら講座派は封建遺制の天皇制が第二次大戦へ導いたのだと主張していて、それが天皇制解体の動機になったらしい。しかし、実際は明治維新以来の欧化政策を象徴するのは明治大正昭和の三代の天皇だったはずなのだが。
ただし文化的には日本伝統文化が色濃く残っている。短歌は天皇家の庇護のもとにあったし、更に短詩形の俳句が日本文化を究極の形とみる李御寧「縮み志向の日本人」と捉えた日本文化論もある。
結局、世界統一は米英中心で達成したことになる。
６．結論
以上、大きな衝突は５回ぐらいだと思うが、最初の２回は西の中国からのもので、後の３回は西欧諸国によるものであった。
サミュエル・Ｆ・ハンティントン「文明の衝突」は、米ソ冷戦が終結した後は、イスラムなどとの文明の衝突が起きることを論理づけた。しかし、岡本氏によれば、そもそもメソポタミアに発した農耕・文字文明が東西に分かれて、いくつかの思想的分派（つまり、キリスト教、イスラム、英仏などの自由主義、マルクス・レーニン主義、毛沢東主義）になって進軍しているのであって、当然に貿易と軍事力がセットになっている。
各地の小文明は、いわば日陰の存在のように生き延びた希少種であるが、日本文明も希少種には違いないが、しかしあまりにも大きすぎた。すでに戦国・安土桃山時代から、日本の軍事力は警戒されていたわけで、日清・日露戦争はその軍事力が続いていることを証明して見せたのである。
現在は、戦前の日本に代わって毛沢東主義の中国が欧米に対決することになった。南シナ海を基地化して太平洋をアメリカと二分しようと主張したりした結果、トランプ政権の下で経済制裁を受けている。日露戦争後の日本がアメリカの制裁を受けていたこと、さらに戦後復興に続く経済成長でアメリカのバッシングを受けていたことに似ている。日本式生産流通方式や軽自動車規格をアメリカ基準に合わせろと言うのであった。
日本が米中のどちらに付くのか。それは欧米以外にない。毛沢東主義と言う特殊な普遍性のない思想を受け入れることはできないわけで、英米の自由主義しかないのであるから。
なお、本書では定説史観と違って古代帝国と植民地帝国の区別をしていない。すべて文明の一元化への動きなのである。
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