著者の河崎環（かわさき・たまき）はフリーライター・コラムニスト
１枚目 郡別にみたトランプ（赤）、ヒラリー（青）勝利地域 ガーディアン
「大統領選前、高級紙や3大ネットワーク、CNNなどの報道各社は、「トランプ支持者は教育程度の低い労働者である」と断じていた。だが事後分析によれば、実はマスコミが把握していた以上にトランプ支持者は潜在していた。そして「選挙戦前にはトランプ支持を公表していなかったが、実はトランプに票を投じた」投票者像の中でも特徴的なのは、「家庭の良き妻、良き母」である普通の女たちであり、ヒラリー・ロダム・クリントンが以前宣言した「私はクッキーを家で焼くような女ではない」との言葉をもじって「クッキーを家で焼く」女たちだったと言われている。」
☆海風：要するに、ヒラリーは上から目線で女性に（有権者に）対したことで嫌われたのである。メディアは自身がネオリベラルで、アメリカもそうあるべきと（あるべきはずと）考えていて、深い実態調査をしなかったのである。
「ここに表出した女の中の分断の原因を、女たち自身の中に巣食うミソジニー（女性嫌悪）だと指摘する人は多い。では、権力志向や上昇志向の強い、非保守的な「ヒラリー型」の女に対して、同じ女が抱く嫌悪感の中身は、一体なんだろう。」
「人間は、自分と異なる他者を目にした時、その「不愉快な差異」に理由をつけて納得しようとする。「○○人だから」「年寄りだから」「男／女だから」と、人種や年代、性別のせいにして、「不愉快」の葛藤を内省するストレスから逃避し、差別という安易な出口で決着をつけようとする。ところが「女だから」という差別が、自分も女であるがゆえに機能しないとき、それは拭いがたい嫌悪として生まれ変わるのだ。」
☆海風：専業主婦で何が悪い、という問題は日本でも論争になっていたが、ヒラリーはインパクトのある言葉「私はクッキーを家で焼くような女ではない」で反専業主婦を宣言していた。主婦たちは侮辱されたと思ったのであって、複雑な心理分析は必要ないのでないか。
「トランプの言う「偉大なアメリカ」が取り戻されることで、彼女たちは自尊心を保てるのかもしれない。「自分の生き方は間違っていなかった」「自分の人生は無駄ではなかった」と。「飛ばない」という意味で使われる「保守」の本質とは、そこである。」
☆海風：著者はリベラルであること、女性も社会に進出すべきであることを正しいことだと思っているようである。だから、ヒラリーでなくトランプを選んだということで深層心理まで動員して説明しているように見える。
☆海風：で、その保守的女性像であるが、私は小説しか知らないので、そこから保守的女性像の系譜を確認しておきたい。
まず、原型である。作中のアンはそうではないのだが、作者は上昇志向だった。19世紀末のカナダではあるが。
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養母マリラやリンド夫人など友人たちは家庭を守る主婦（日本と違って、農家でも女性は農業をしない）にして、敬虔な長老派プロテスタント。実態は、兄や夫は彼女たちの影に隠れてしまっている。
作者モンゴメリはアン・シリーズでベストセラー作家になり、さらに（大人の読む）本格小説をめざしていた上昇志向の持ち主だったが、家庭では牧師の夫のよき妻だった、と自分では思っていたらしい。実態は、精神的に夫を追い詰めていたとのことだが。
�▲沺璽�レット・ミッチェル「風と共に去りぬ」
「赤」の万事に派手なスカーレットと控えめな家庭の主婦「黒」のメラニー。スカーレットは渋々ながら、世間知らずのメラニーを守っているつもりだったが、実態は逆だったことを彼女の死によって思い知らされる。いうまでもなく、地域はジョージア州アトランタ。
・・・ミッチェルもスカーレットのように男を押しのけて事業活動を行うのは敗戦の非常の時だからと考えていたようである。だから、ラストシーンで、スカーレットはタラ農場へ引退することになる。ミッチェルの母は女権運動家だったのであるが。
��テレビドラマ「奥さまは魔女」
魔女なのであるが、その能力を夫の社会的出世のためには使わない。夫が自分のプライドを守るために厳禁しているのである。で、彼女の能力は、無能な男と決めつけている母から夫を守るのと、勤務先の同僚たちを巻き込むドタバタ喜劇を起こすのと、そのことで隣で興味津津の盗み見主婦をおびえさせるだけだった。
・・・魔女のサマンサは能力を隠して主婦に徹している。それでも尻尾があらわれるのがおかしかったのである。
�ぐ族�章太郎「アメリカ感情旅行」岩波新書
先にベストセラーになった、小田実「なんでも見てやろう」を意識していて、小田の積極性に対して、アメリカ人から見られる日本人の私の受けた感情の波を描く、という趣旨である。どちらも、事前にアメリカを知るための勉強をしない「体感」滞在記である。安岡の滞在先は南部テネシー州のナッシュビル。
そこでは、「あそこに住んでいるのは共産主義者でないか」などと、まるで魔女狩りのような噂話に余念のない主婦たちを観察していて、安岡はアメリカの保守性に驚いている。
・・・ディープサウスの女性像であろう。今も脈々と生きているようである。
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主人公ジニーは南部アラバマの田舎に住んで、いざとなれば大胆な実行力を発揮することで地域では有名であるが、普段は、友人の女性と共に、サザン・ホスピタリティを体現した大衆食堂を経営している。題名は安くてうまい看板料理。宣伝文句は、自分（ジニー）が料理するわけでないから、安心して来てください、というもの。
・・・これもディープサウス。まだ、キング牧師以前で黒人を食堂に入れられなかった。そこで、外で食べられるセットを用意している。ジニーは十分社会的なのであるが、やっていることは主婦業の延長である。マネージだけであるが。
ということで、アメリカの「飛ばない」保守的女性は今も厚い層をなしているのでなかろうか。リベラルは人口ではアメリカの半分を占めているのだろうが、地域的には大都市に偏っている。郡別の見ればヒラリー勝利は点と線なのである。
ニューヨークタイムズなどの有名新聞は、日本で言えば朝日新聞に対応するのだろうが、日本と違って全国新聞ではない。地方にはそれぞれの地方紙があるとのことである。ただ、日本の場合、共同通信などの通信社が世界や東京の情勢を配信していて、どの新聞も、地元情報以外は似たものらしい。アメリカはどうなのか？そもそも、アメリカの地方人は世界情勢などに関心がないともいわれているが。
それにつけても、映画「イージー・ライダー」に（リベラルの目で）描かれる南部はひどかった。東部かカリフォルニアだかの多分大学出なのだろうが、二人のヒッピーが南部にバイク旅行に出かけるが、南部に入ってところで保安官からこれ以上進むと命はないぞ、と警告されるも無視して入っていき地元民から射殺された。
トランプは南部の復讐かもしれない。今もなお、この対立は続いているようである。
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