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2014年03月06日10:22

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フィクションの中へ(29) 物語のはじまり

 松村由利子「物語のはじまり 短歌でつづる日常」中央公論新社2007 を図書館から借りてきた。最近、難解な俳句や短歌などの意味を知りたくなったからだが、ここには難しいものはなかった。内容は、「働く」、「食べる」から始まって、「病む、別れる」というように、生活行動を10に分類して、それぞれに当てはまる短歌を解説したものである。

1.働く
 「わが首のにおいをさせて五十本ネクタイが闇につるされている」渡辺松男
   よくわかるが、私には「におい」の措辞がでそうにない。においに敏感でないからか。
 「キオスクの缶ビール干し一日を握り潰して待つ下り線」早野英彦
   無駄な言葉が一つもない。

 「かしぎかしぎわれに駆けくる少年の四肢ばらつくを一束に抱く」上村典子
   この歌とよく似た歌を新聞の投稿欄で見て切り抜いていた。
   毎日歌壇1977.1.29「サンルームに児等と遊べばくるくると下肢麻痺の児が寝返りてくる」長野州万子 「くる」が三つ重なり少年の懸命さが表されていると思う。

2.食べる
「ただひとつ惜しみて置きし白桃のゆたけきを吾は食ひおはりけり」斎藤茂吉 
  昔は高価な果物でよくあったことだった。太宰にも子を思いながらもさ くらんぼを一人で食べつくす短編があった。

4.ともに暮らす
 「小児麻痺の兄持つことを告げしとき大きなかひなに唯抱かれき」岡田泰子
   まさに、これがともに暮らすことだろう。
 「日に幾度笑いて笑いとまらざる妻と呼び慣らわしているこの女」永田和宏
   まあ、お互いさまだろうけれど、女性の方が不可解さは多いと思えるし、だから楽しいのだろう。ハムレットも藤村操も生きていれば楽しい不可解に出会えたに違いない。もつれることもあるのだが。

5.住まう
 「ヨーグルト買って帰ろう22時スーパーだけがいつも優しい」柴田 瞳
   日常的にそうならさびしい限りだが、この前の大雪の時には朝から近所のコンビニに車が来ていた。3.11の時は遠出をしていて、電気のついているコンビニを見てほっとしたものだった。

9.老いる
 「人はみな馴れぬ齢を生きているユリカモメ飛ぶまるき曇天」永田 紅
   ズバリでした。後半は見慣れた空間の中でということか。
 
 「年々にわが悲しみは深くしていよよ華やぐいのちなりけり」岡本かの子
 「死の側より照明せばことにかがやきてひたくれなゐの生ならずやも」斎藤 史
  そうありたい。「ひたくれなゐ」は2.26事件のことかと思ってい た。

10.病む、別れる
 「我を生みしはこの鳥骸のごときものかさればよ生(あ)れしことに黙す」斎藤 史

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