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2013年01月26日10:12

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時代の中で(75)  夢千代日記

 早坂暁脚本「夢千代日記」新風舎文庫2003 は広島で胎内被爆した夢千代(吉永小百合)の病床日記の体裁をとったドラマである。彼女は湯の里温泉(兵庫県の日本海側の湯村温泉がモデル)の芸者置屋はる屋の女将で、彼女の周りにあつまる行き場のない人々の物語である。私はこれをテレビで見ていたのだが、かみさんがファンですすめられたのだった。で、30年ぶりにブックオフで脚本を見つけたので読んでみたのだが、内容は何も覚えていなかった。ウィキで調べてみると3部作で1981、1982、1984年に3部作として放映されたとのこと。いったい、どれを見たのかあらすじを見ても思い出せない。ボケが回ったか?
 覚えているのは、暗い室内で、外はみぞれなのだろう。夢千代が後3年の命です、と語るモノローグの場面だけだ。余部鉄橋がドラマの入り口のように設定されているが、余部鉄橋での列車転落事故は1986年だったのでドラマには影響していない。
 夢千代はいかにも吉永小百合らしい凛とした気品をただよわせて、また心の中では自身の死を見据えていて、なれなれしく近寄れるようなキャラクターではない。しかし街の人々には信頼されていて、世話好きの医者などが行き場のない人々の世話を頼みに来る。また、5年前になくなった母が世話を引き受けた子もいる。そういうところだと観念されてしまっているので、無下に断ることもできず芸者として教育したりしているのである。
 この第一部の全体を通したストーリーはあってないようなものだが、一つははる屋にいた芸者を殺人犯として追ってきて、ここに必ず来ると張り込んでいる刑事の物語だろう。レ・ミゼラブルの刑事のように、立ちふさがる夢千代をかいくぐり、しつこく迫っていた彼も、最後にはむなしくなり、偽医者の養子あっせんの記録を燃やして刑事を廃業してしまった。
 温泉につきもののストリップ小屋のバックミュージックはあがた森魚「赤色エレジー」、本人も照明係として出演している。このもの哀しいメロディーはさみしい温泉の小屋に確かににあっている。それにしても、ストリップ小屋はなぜかさみしいのである。

 このドラマはあきらかに川端康成「雪国」を背景にしている。駒子も芸者で精神を病んだ妹分の葉子などの世話をしていた。雪国の入り口は上越国境のトンネルだったが、こちらは天にもとどく余部鉄橋である。そして、裏日本の風土。夢千代は駒子と葉子が一つになったようで、愛人島村にあたる人物はいなかった。
 松本清張原作、野村芳太郎監督「砂の器」も裏日本、日本海の風土が背景にある。ハンセン氏病におかされ、若狭あたりだと思うが在所にいられなくなった父親が幼い息子を連れて遍路の旅に出る。道は日本海沿岸部を西へ、つまり西方浄土へ向けて、道行きの海岸風景や果樹園の四季の美しさ。そして、出雲の世話好きの巡査に出会ってしまったのだが。あまり関係ないか。
 
 吉永小百合は昭和20年生まれ、これを聞いて著者はこの物語を書くことにしたのだと言う。著者は少年の時広島の原爆に遭遇していたのである。
 私事をいえば、私も生まれは昭和20年だった。そして、戦後の生活のために鳥取県の親戚を拠点として行商していた母の後ろにくっついて歩いていたのである。家と家の間から見える日本海。雪のバスの通る道。真っ暗で蛙の声が天に届くあぜ道。「砂の器」の世界であった。清張は砂の器にすぎない人間にも意地がある、と言いたかったのだろう。・・・まとまりがつかなくなったので停止します。何を書こうとしていたのか忘れてしまった。
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