上野瞭「現代の児童文学」中公新書1972 と、松田司郎「現代児童文学の世界」毎日選書1981 を併せて読んだ。
上野瞭は1928-2002、児童文学作家で同志社女子大学教授であった。
松田司郎は1942生で、宮沢賢治関係本多数、大阪国際大学教授であった。
この二冊を併せ読むことにしたのは、両書の構成がよく似ているからである。
�〇�童文学を二つに分類する。上野は「当たり前の世界」、「不思議な世界」。松田は「日常世界の深まり」、「非日常世界の魔力」。前者がリアリズム系、後者がファンタジー系で取り上げている事例も対応している。
�∋�例は海外作品と日本作品を並列して説明。
�４靄椶箸垢觧訶世蓮▲檗璽襦Ε▲供璽襦嵋棔�子ども・大人」を使っている。つまり子供の目や関心を重視すると言うことである。
�て�本の事例として、反戦平和児童文学があげられていること。
�ゾ緻遒両豺隋∪萓犬篆討覆匹梁膺佑鮖匐，量椶�らみて矮小化して描いていることが評価され重視されている。
上野も松田のものもきわめて穏当で正統的な児童文学論だと思われる。しかし、反戦平和をテーマとした児童文学を重視することで、全体の構成や論旨がねじれてくるようにみえるのである。というのも、「反戦平和」とは、これも一種の「大人」からみた価値観の押しつけであること。上野は、鈴木三重吉「赤い鳥」が子供を「善導」しようとしたことを非難するのであるが、鈴木の場合と同じ轍を踏んでいると思われる。いずれも、ポール・アザールが子供の関心を優先させていること、そして上野も基調として従っている原則に矛盾していると言わざるを得ない。
事例としては上野では、長崎源之助「あほうの星」で、これは「不思議な世界」の項の中で、そこには入れない子供がいるとして論じられているのである。かなり苦しい位置づけである。取り上げたいがどこに入れるべきかと、かなり悩んだ末に違いない。対比される海外作品としてエリ・ヴィーゼル「夜」があげられているがこれは児童文学とはいえないだろう。
松田の場合は日常世界の中の事例として入れている。このほうが妥当だろう。戦時下といえど、それが日常だったのだから。奥田継夫「ボクちゃんの戦場」は集団疎開をテーマとしているが「強制収容」を描いたものとして評価され、灰谷健次郎「太陽の子」は沖縄戦が背景となっている。
なお、上野の「不思議な世界」にはマルクスが指摘した児童労働もはいっている。日本の場合、ファンタジーは現実からなかなか離陸できないようだ。すぐに現実に引き戻されてしまう。トールキンのいう準世界創造のためにはよほどの集中力が、心頭を滅却すれば火もまた涼しの観想力が必要とされる。キリスト教とと違って日本人は浄土世界を信じきれないのだろう。
多分、反戦平和への使命感を基本とした力作があるために、上野や松田はポール・アザールに背いて、構成をはずしても取り上げざるを得なかった。あるいは、これが児童文学のピリリとした薬味、トウガラシになると思ったのだろうか。高見順の性急な掛け声「描写のうしろに寝ていられない」をもじれば、「子どもの目にばかり頼ることはできない」ということになろうか。
大人の矮小化の典型として上野があげるのは、谷岡ヤスジ「メッタメタガキ道講座」や永井豪「ハレンチ学園」などのマンガである。児童書としては、古田足日「宿題ひきうけ株式会社」や山中恒「ぼくがぼくであること」のようである。しかし、大人の右往左往を見て子どもが溜飲を下げているのかどうか、疑問が残る。
なお若干の疑問が残っている。上野はノートン「床下の小人たち」シリーズをもって、核兵器、公害、国家意識、階級格差などに依存せざるを得ない人間社会の比喩だと解釈している。かなりのイデオロギーの持ち主と言わざるを得ない。素直に読めば、人種や動物種をこえた共生が描かれているのであって、「星の王子様」でいえば、この小人たちは用心深い狐に相当するに違いない。
そしてもとより「借り暮らし」は人間社会そのものなのである。すべて自然から借りているのだから。ここで、小人たちの方が真相をつかんでいるのである。なにしろ人間の方は所有物をどう扱おうと自由だと信じていて、借り物だとは思っていない。つまり、地球温暖化やオゾンホールなどが結果したのであった。
ということで、地球の引力に引っ張られて、なかなかファンタジーへと飛び立つのは難しい様子である。私もそうだが。松田などは宮沢賢治の研究者なのであるが、それにもかかわらずリアリズムが強くてイーハトーヴを信じていそうにない。先にも述べたが、思い切ったキリスト神話が心の底にある欧米人と比べての弱みだと思う次第である。
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