mixiユーザー(id:34218852)

2011年02月25日21:39

213 view

小説の中の謎(69)  落ちぶれた魔法使い 

 ブロイスラー「クラバート」1971 は、知らないうちに魔法使いの弟子になってしまっていたクラバート少年が、愛する少女の力で、その境遇から逃れるという物語である。クラバートは、自分では水車小屋の粉屋の徒弟になったつもりだったのであるが、水車小屋の職人に欠員ができたために、魔法でおびき寄せられたのであった。実は、粉屋の親方が魔法使いであり、12人いる職人は大晦日に一人、魔法使いの大親分への貢物として死ぬことになっていたのでる。
 物語の背景として、中世ドイツのギルドの親方と徒弟たちの仕事や年中行事が描かれている。その日常の中で、魔法使いと弟子たちの恐怖、秘密、緊張に満ちた粉ひき仕事がたんたんと進んでいく。
 これは、キリストと12人の弟子の物語の裏返しになっている。キリストの場合には、裏切り者はユダ一人だったが、ここでは、親方に忠実なのが一人だけであった。後は、死の恐怖と、魔法使いになれるかもしれないという期待のはざまで身動きが出来ないでいた。あえて反抗したものが死ぬことになる。そして、クラバートも反抗の道を歩き出す。
 というのが正統的読み方に違いないが、私としては、魔法使いの没落ぶりに同情せざるを得ない。魔法使いが、零細な粉ひき業者で、しかも大親方に首根っこを押さえられた下請け業者なのである。親方も、粉屋を弟子に譲ってザクセン選帝侯国の王様に仕えることを夢見ている始末である。何ということであろう。メフィストフェレスが知れば嘆き悲しむに違いない。
 ハリーポッターの魔法使い達とは月とすっぽん、雲と泥の差がある。ましてや、中国における仙人との比較となると、なさけなくてできるものではない。また、中世ヨーロッパの教会のぼろを身にまとった位階のない聖職者たちでさえ、王様の前でもっと堂々としていたはずである。確か、スタンダール「赤と黒」でそう言っていた。
 なぜこんなことになったのか。ここはやはり、ハイネ「流刑された神々」を思い出さざるを得ない。魔法使いとは、キリスト教に追い払われる前の原始ゲルマン民族の神々だったのであろう。それが、中世ドイツでは、下請けの粉ひき業者に身をやつして、やっと生き延びていたのであった。実際、正体が分かれば火あぶりになるのだから。それでも、実は、地元の農民たちは気が付いていて、不作の恐れがある時には、頼ろうとするのであるが、親方はすげなく追い払ってしまう。作者は親方の性格の悪さの例としているようだが、もちろんそれは違う。衆人の前で魔法を使えばどうなるか。親方は良く知っていたのである。
 歴史学者のランケは、ヨーロッパはゲルマン民族、ギリシャローマ文化にキリスト教の、三者によって作られたと言ったが、この童話から見ても、そう簡単にはいっていないことが分かる。
0 2

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2011年02月>
  12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728