坂田靖子の新しい読み切り連作である。
「一応探偵局」というタイトルだけで、絶対に面白いとわかる。
他の作者なら「一応」のあいまいさが危うくも感じられるが、
坂田靖子の手にかかれば「一応」の部分が絶妙のコメディになるとしたものだ。
案内は事務所の扉の「一応探偵局(ほか、なんでも) マクス・テグマーク」の看板だけ、
宝くじの当選金で部屋を借りたということなので、
どうやらマクスは食うに困らない良い身分であるらしい。
そこをまず訪れたのが、いかにもカタブツな会計士のジョージ・メートル。
会計士を雇う余裕もないし、それほどの仕事をしていないと困惑するマクスだが、
給料は両親からもらっているので、と会計士は意に介さない。
そんなわけで、依頼者は猫を探してほしいという小学生の女の子とか、
サッカーの練習していたら近所の人に叱られたというカエルのコスプレの少年とか、
とても普通の探偵局に来るようなお客ではない。
大人の依頼も、浮気調査のような本格的そうなものもあったが、
その部屋に限って借り手がすく解約してしまうアパートとか、
隣家の呪いのせいで、車は故障、排水管は壊れ、靴はなくなり、肉は焦げるとか、
たとえ数時間でいいから、とにかく幼児期の三つ子男児を預かってほしいとか、
ホラーか、探検か、ナイトスクープか(あっ「探偵」だ)という依頼ばかりだ。
とはいえ、そういう変な依頼がきたとしても、探偵局の前には「一応」がついているし、
看板には「ほか、なんでも」とまで書いているのだから、
そんな依頼が集まるのも仕方のないところだ。
というか、そういう設定にした坂田靖子がやはり上手い。
そして、この探偵マクスがなかなかに優秀で、
猫はすぐみつかるし、浮気疑惑の夫が隠していたもっと深刻な問題を明らかにしたし、
サッカー嫌いの爺さんに至っては気がつくとカエル少年と仲良しになっている。
夜中にお化けの出る部屋の謎も科学的に解き明かすし、
呪いをかけられた(と信じ込んでいる)女性の気持ちもうまく落ち着かせたようだ。
なので、会計士はというと、
猫探しのお礼のマリトッツォ(小学生だし)を報酬に計上したり、
浮気調査で使ったコーヒー代を必要経費にしたり、
カエル少年がお礼にくれたオタマジャクシをどう帳簿に付けるか悩んだり、
少なくとも会計士らしい仕事はあまりできていない。
それでも、呪われた女性もつい引き込まれるような占い師のイトコを紹介したり、
ギャングエイジ3人組の一時預かりの依頼では思わぬ才能を見せてくれたので、
常に超然としていなからもタダモノではない感じだ。
今後とも良い形でマクスを支えてくれそうだ。
一方、そのマクスなのだが、
冒頭に、いささか謎めいた子ども時代に木から落ちたエビソードが置かれ、
結局、「俺は人づきあいがちょっと苦手になった」という独白だけで放置されている。
今後、展開される大きな物語につながってくるのだろうか。
ちょっと気になる。
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