１枚目 表紙絵 この猫が著者の飼い猫スニーキーで、町で一番賢い猫ミセス・マーフィのモデルらしい。表紙の英語は原題で、殺人犯が有名人の墓標の絵葉書に書いてターゲットに送る殺人予告。
２枚目 アメリカの田舎町の郵便局 雪山日記ブログより
小説の場合は、町の駅舎に隣接している小さい郵便局。
３枚目 リッチモンドの裁判所で降伏文書に署名するリー将軍、もう一人はグラント将軍 iStockより
著者は1944年ペンシルヴァニア州ハノーヴァーで生れる。ニューヨーク大学で古典文学を学び、ワシントン政治研究所で政治学博士号取得。ミセス・マーフィはシリーズになって、本書は第１作。
著者はよほどの猫好きのようで、猫や犬のペット間の世界と、ヴァージニア州の人口３千人の田舎町の人間関係が並行して描かれる物語である。その誰もが知り合いのような小世界を舞台とした連続殺人が軸となって進行するのだが、知っているはずなのに知らない意外な一面があったことが分かる。
１．ヒロインでミセス・マーフィの飼い主は郵便局長のハリーである。ハリーの郵便局は鉄道の駅に隣接しているのだが、末端の郵便局の機能は日本と異なって、配達された郵便袋を開けて、私書箱に入れていく。住民は郵便局に顔を出して自分の郵便物を持っていくのである。だから宅配はしない。（ポストマン・パットは宅配していたが、と思ったが、あれは英国の話だった）。
で、ハリーは私書箱に入れていくときに葉書は読むし、封書でも誰にどこから来たか興味津々なのである。本当は違反なのだろうけれど。
２．ハリーは有利な立場を生かして殺人犯を推理するし、ペットたちも互いに情報を交換してハリーを助けようとするのだが、ハリーにはペットが騒ぐと思うだけで、全く通じない。というような面白そうなところは飛ばして、ここでは、ヴァージニア州の人口３千人の田舎町の意識と近所付き合いに注目する。
３．ニューヨークへの対抗心
�‘酲明鐐茵�1861-65）では、ヴァージニア州の州都リッチモンドが南部連合の首都になり、グラント将軍がリッチモンドを占領したことで、リー将軍が降伏して終わった。
ヴァージニア州はワシントン特別区と隣接しているわけで、その州都リッチモンドが南部連合の首都とされた。北部との因縁が残っているらしい。
�▲椒好肇鵑瞭�植者が清教徒（クエイカー）で、メイフラワー号の子孫のWASPが名家になったのに対して、ヴァージニアでは、再洗礼教徒バプティストで、先住民のポカホンタスとの子孫が名家とされている、とのこと。
４．町長の一家、実業家、労働者など網羅的に、町の全体を描いて、田舎町の生活が分かるようになっている。かっての日本の田舎の場合、隣のタンスの中まで分かると言われていたが、似たような感じである。
田舎町を舞台にした小説などはあるが、近所付き合いまでは分からない。
例えば、�．▲薀丱淙�語。作者の故郷である田舎町モンロービルが舞台になっている自伝的小説であるが、町の全体像にはなっていない。黒人をリンチにかけようとする群衆が登場するが、個人としての人物像にはなっていない。主人公である著者の父親と、３人のわんぱく少年少女（著者のハーパー・リー、トルーマン・カポーティと彼の従兄弟の３人）、彼らの標的とされた一人暮らしの人物。犯人と名指された黒人青年。警官か保安官ぐらいだと思う。
�△泙拭▲肇燹Ε宗璽筺爾遼糎院�
作者の故郷のミズーリ州のミシシッピ河沿岸の田舎町ハンニバルが舞台で、トムの伯母、浮浪児ハックルベリ・フィン、友人の少年たち、殺人犯のインジャン・ジョー、無実で逮捕された人物などと学校、教会は登場するが、町の全体像とは言えない。
★海風：まとめ
昔だが、アメリカに詳しい人が、テレビドラマ「奥様は魔女」はアメリカの普通の家庭を描いていると言っていた。娘の母親は、一流の男に嫁がせたいと思っているので、現実の娘の夫を受け入れられず、不満を募らせているから娘婿との仲が悪い。
隣家の人は、隣の出来事に興味津々で、できたら覗きたいと思っている、などであった。
で、先日図書館で、文芸雑誌をパラパラめくっていたら、「奥様は魔女」に関する評論があった。著者は忘れたが、このドラマは夫に忠実な専業主婦を主役にして、古き良きアメリカを描いていたとの定説があるが、必ずしもそうとは言えない側面があるとのこと。
まず、妻のサマンサの能力が夫よりずっと上であること。夫の勤め先には口を出さないとの約束だったが、仕事が危うくなると分からないように魔法を使っていると。
つまりサマンサは自身の能力を社会に見せていないだけで、自覚しているし、それを見せれば、女の方が優位な社会になってしまう。つまり、ウーマン・リブの前夜のようなドラマだったと言うのである。
少し前になるが、「奥様は魔女」を映画化すると言うストーリーのドラマがあった。その主役の夫役に、二枚目俳優なのだが仕事の来なくなった男性が指名された。
事務所は大喜びなのだが、本人は嫌だと抵抗する。あの役はサマンサの引き立て役にすぎない、プライドが許さないと言うわけである。
ところがサマンサのような魔女が現れて、あのドラマの毎回のナレーションのように、気が付かないうちに恋に落ちて結婚してしまうのであった。
ということで、アメリカの家庭も地域社会も、表向きの個人主義の自立した社会ではないと言うことらしい。
ログインしてコメントを確認・投稿する