１枚目 7-6億年前 地球のからくりブログ
２枚目 黒ボク土 農業環境研ブログ
３枚目 伯耆大山の畑作 朝日新聞
著者は1981年生、京都大学農学部卒、博士研究員を経て森林総合研究所。専門は土壌学、生態学、世界各地の現地調査。
１．多様な土の色
ダーウィンはビーグル号の航海で各地の土の違いと生物の違いが連動していることに気が付いた。南米チリの豊かな森林の元となる肥沃な火山灰土壌、ペルーの沙漠土、ガラパゴスの肥沃な黒い土壌、熱帯雨林を支えるブラジルの赤い土。
日本には、北海道、関東、九州に有機物に富む黒い土（黒ぼく土）、各地の平野の田んぼには、どろどろした灰色の土、沖縄や小笠原諸島には黄色や赤色の土もある。
アフリカや南米大陸、東南アジアなどの熱帯にも黄色や赤色の土がある。土に有機物が少なく、鉄さびを多く含むためである。
酸性とアルカリ性
降水量の少ない草原や沙漠は中性からアルカリ性の土。森林が発達すれば酸性になる。雨や雪の水によって土や岩から溶け出したカルシウムが二酸化炭素を吸収して石灰岩（炭酸カルシュウム）になる。乾燥地がアルカリ性になる原因である。
雨が多いと、炭酸カルシュウムを流してしまい中性から酸性になる。と言うことで、雨の多い日本には酸性土が多い（だから化石も少ないし、古代人の骨も残らない）。
月と火星には岩とそれが風化した砂と粘土はあるが、土はない。植物が砂と粘土に重なって土になるわけで、植物のないところに土はない。
２．土の来た道：逆境を乗り越えた植物たち
先駆者たち
苔と地衣類（カビと藻類の共生した生物）は、何かわからない酸性の物質を出して岩を溶かしている。分析化学の大御所だと思い込んでいた学生の筆者は、ヒース博士に問い合わせると、なんと博士自ら日本ヘ行くと言ってくれた。空港でいくら待っても現れないので、近くでポカンとしている30代くらいの青年に声を掛けると、彼こそが大御所だった。
で、彼の助けで調べると、苔からしみ出しているのはクエン酸やリンゴ酸などの有機酸だった。それが岩を溶かしていたのである。
尾崎翠「第七官界彷徨」には苔の恋愛によって土壌を改善しようとする青年学者が登場する。
★海風注：尾崎翠は鳥取県の地主に娘だったので、人糞尿を肥料に使うこととか、黒ボク土のことは知っていただろうが、原始の土が苔や地衣類によって作られたことまでは知らないはず。それなのに苔の恋愛によって火山灰土壌が改良されるなどと、どうして発想できたのか、謎である。
「第七官界彷徨」の主人公は、第六感を越えてシュールな「第七感界」をテーマに小説を書こうとしている女性であるが、兄が失恋の苦しみを癒そうと、赤城山だったかの山小屋に籠っていたところ、麓の村長がやって来て、農学士だとお聞きしている。わが村の土壌を改善する方法を教えてもらえないかと言うのである。兄はその夜密かに山小屋を脱出して東京に逃げ帰り、鍋で便所の糞尿を煮て、苔に恋愛させる実験を始めた。おかげで、家中が臭くなり他の兄弟たちには大迷惑になった。それでも、二人の？苔の神秘的な恋愛が成就し実験は成功したとのこと。
２．苔や地衣類によってできた原始の「土」に４億年前に根を下ろしたのがシダ類だった。シダ植物の遺体が重なって泥炭土となった。日本では北海道に多い。そのピートモスがスコッチのフレーバーを作る。この泥炭土が地下深くの高熱・高圧条件で石炭になる。
３．赤毛のアンの赤土
アフリカから大陸移動でプリンス・エドワード島に熱帯の赤土がやってきた。この時1908年にはまだ大陸移動説はなかったので、何故土が赤いのか誰にも分からなかった。
それでは４億年前に繫栄したシダの森はどこに行ったのか？ 著者は化石の宝庫になっているカナダの北極圏の町に出かけてシダ樹木の化石を発見した。
４．３億年前
湿地帯を占領していたシダ植物を追い払って、裸子植物が出現（イチョウ、海岸に多いマツ、谷に多いスギなどの先祖）した。
湿地で窒息しないのは、根の周りを酸素を作る酸化物の鉄さびが覆っているからである。これは水田で育つイネ科植物と同じ仕組みである。
４．落ち葉が微生物によって二酸化炭素に分解され大気に帰る。すぐに分解されなかった落ち葉は腐葉土になる。その時に樹木は幹を強くするために（シダのように倒れないために）リグニンを作ったが、この分解しにくいリグニンを分解するのがキノコ類である。
キノコが出現するまで、分解されない木は石炭になった（石炭紀）のだが、キノコの活躍によって石炭紀は終わった。
５．森林において、土壌を酸性に変えているのは植物自身である。植物は有機酸によって溶かされたカルシュウム・イオンやカリウム・イオンを吸収し、水素イオンを放出する。アルカリ分が少なくなって土壌は酸性化する。
熱帯の土は肥沃な表層土が少なく、植物の成長に欠かせないリンが不足している。しかし、一方で熱帯雨林の大森林がある。この大森林はキノコの菌根菌と共生することで養分を得ているのである。
６．日本列島の誕生
暖流と日本海と山脈による雨が日本を森の楽園にした。そして森が土を酸性にしたのである。
さらに、鹿児島県湾の姶良（あいら）火山や鬼界カルデラと富士山の爆発によって、関東平野に何度も降り積もった火山灰土壌が日本に特有の黒ボク土を作ったのである。
火山灰の多くはアルカリ性なのだが、一旦、森林が土を酸性にすると、その黒ボク土は中和するのが難しい。これに取り組んだのが宮沢賢治だった。見かけは同じ黒い土でもウクライナは穀倉地帯になっているのだが、黒ボクではそうはいかない。
★海風注：賢治の詩に「広原淑女」があるが、彼女たちはウクライナの舞手に例えられている。賢治はウクライナの黒土と穀倉地帯であることを知っていたのだろう。師匠の関教授が土壌学の大家だった。
火山灰土壌は有機物を吸着するので、地下に潜った水は透明になる。日本の川が澄んでいるのはそのおかげで、外国の川は濁っていることが多い。
７．エジプト文明（農業）は古代文明の時からナイルの（溶け込んでいる有機物の）賜物だが、これもアスワン・ハイダムによって中絶してしまった。今は、その電力で作られた化学肥料が必要になってしまった。
★海風：まとめ
原始においては、岩の風化した砂と粘土だったのが、それを苔や地衣類や土壌にし、さらに根を下ろした植物が肥沃な途上にした。さらに、肥沃な土地にするために植物は進化し、酸素のない水の中でも生きるために、根粒菌と共生する植物、酸化鉄を根に集めるイネなどの植物も進化した。
熱帯から寒帯までの温度と雨量の違う環境の下で、いろいろなタイプの土の進化と植物の進化は並行し交わりながら今日に至ったわけで、半分は見えない土の下に起きた壮大なドラマだった。
宮沢賢治の童話や詩や、いわば突然変異によるシュールな尾崎翠「第七感界彷徨」も、日本農業と黒ボク土との格闘を描いている。
★海風注：賢治の戯曲「飢餓陣営」には、「雨と湿りの黒土」に果樹を育てるための整枝法がバナナン大将から兵士たちに伝授される場面がある。黒ボクでは野菜はダメだが果樹は育つわけである。
未来シェアリングのブログによれば、黒ボクの分かりやすい説明があった。
「年間降水量が1,300ｍｍを超す日本の気象条件により、日本の火山灰土（黒ボク土）は、�‥擇硫蹴慇�が不良で、��農業に不向きな酸性土になった。
この黒ボクの特性を改良するために、
石灰質肥料による酸性土壌の改善（そのために晩年の宮沢賢治が活動していた）と
リン酸施肥によって黒ボク土の化学性の改善が図られた。
なお、黒ボク土は、保水性、排水性に優れ、耕しやすい柔らかい土である。（要約）」
ついでに、本書の山と渓谷社は登山本専門の出版社だと思っていた。
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