共著者 学者：政治学者・御厨 貴、思想家・内田樹
政治家：自民党・石破茂、自民党・村上誠一郎、立民党（元自民党）・小沢一郎
官僚：文科省・前川喜平、通産省・古賀茂明
記者：中日（東京）新聞社会部・望月衣塑子
１枚目 インド・太平洋構想 産経新聞
２枚目 TPPの拡大 中日新聞
３枚目 クワッドと関連する同盟 毎日新聞
第１章 時計の針を止めてしまった安倍・菅の９年間（御厨 貴）
小泉は丁寧な説明をせずに、ワンフレーズポリティクスの劇場型政治を作った。
不思議な現象は、小泉自身の支持率が５割以上あっても、政策の支持は２割ほどの場合が多かった。
安倍内閣で、アベノミクスとか政策らしいものを出して、外交政策も説明しようとはしていた。
しかし、小渕優子大臣や甘利明大臣の金銭疑惑が発覚し、さらに安倍自身のモリ・カケ・サクラ問題が発覚した。しかし、安倍は説明せず、選挙に勝てればよいとした。選挙至上主義です。
自民党議員は勉強しない。安倍は、若手は政策の勉強などせずに地元の選挙のことに集中せよと指示した。共産党は図書館まで作って勉強しているのに。
吉田茂は、軍隊を持たないで経済発展すると言うビジョンがあった。
岸信介は日米安保条約を改正した。池田勇人は所得倍増。
安倍再選から時計の針が止まった。
★海風注：キー・ワード
説明能力なし
選挙だけ
倫理観なし
安倍内閣の経済政策、外交政策は評価できない
第２章 選挙＝市場の信認だと錯覚した自民党（内田 樹）
小泉さんも言葉が空疎だったが、誤魔化しているという自覚があった。その小泉的雄弁は国民の耳目をひきつけた。だから郵政民営化やイラク戦争加担もできた。
安倍・菅は嘘に疚しさを感じていない。支持者を増やそうと言う気概がなかった。
有権者の過半を得なくても選挙に勝てる。３割のコアな支持者をまとめれば過半数を得られる。何を言っても政治に反映されない人々は投票に行かなくなった。
アメリカを最優先するナショナリストと言うねじれ。
大日本帝国の復活。憲法改正すれば、アメリカの許諾を得て戦争できる国になる。
戦後日本は、対米従属を通じて対米自立を果たすというねじれた国家戦略を選択した。
菅さんにはそれさえない。「自助、共助、公助」で、国民に政府に迷惑かけずに自分でやれと言ったも同然。
株式会社はトップが決定して、合意形成に時間をかけない。自民党もある時期から株式会社になった。ただし市場で失敗したら退任させられる。政治の場合は、国際社会での地位だと思う。
★海風注：
説明能力なし
選挙に勝てたのは選挙制度のトリック
アメリカに追随するナショナリスト
自助、共助、公助の主張＝政治責任放棄
政権を信任するかしないかは国際社会が決めること（外交）
第３章 言論空間の機能不全が自民党を脆弱化させた（石破 茂）
厳格な４条件で定められていた獣医学部の新設許可
加計学園は条件を満たしていないし、今回のコロナでも何の研究もない。
当選11回と言う自信が信念を後押しする。
自民党はその他大勢という日本そのものの政党
有事法制の時は、社民党と共産党は最後まで反対したが、きちんと説明し議論したので、当時の民主党は全員賛成した。
自衛隊を司法、立法、行政でコントロールしなければ民主主義は死ぬ。
個別的自衛権ならと言うが、逆にドイツは個別的自衛権を禁止している。ナチスを再び生み出さないために。
しかし日本では、集団的自衛権と言えば、アメリカと世界の果てで戦争するのかと言う。
★海風注：
権力の私物化 加計学園
選挙が重要
集団的自衛権の方が戦争を抑制する（ドイツ）
第４章 自由闊達なぎろんがなくなれば民主主義は容易にファシズム化する（村上誠一郎）
選挙と人事権と政治資金を握った者は、誰でも一強になれる。小選挙区制が助長した。
自分（村上）は党に頼らずに選挙に勝てるから。だから臆することなく批判する。
安倍内閣の集団的自衛権に反対した。なぜなら米中戦争が勃発したら、日本の基地から台湾防衛に向かうことになる。必然的に日本が巻き込まれる。
1959年の砂川判決が駐留米軍を憲法違反でないとしたので、それを根拠に集団的自衛権を進めた。
戦後レジームからの脱却を掲げて、戦略なき外交だった。
★海風注：
自民党の制度のトリックで安倍一強
自分は選挙に強い
集団的自衛権に反対。台湾をめぐる米中戦争に巻き込まれるから。
戦略のない外交
第５章 権力に酔った官邸の暴走が招いた茶番政治（前川喜平）
古き良き自民党には、与謝野馨文部大臣「みんなが不満を持たないように信治思いをしないように目配りする。」のような配慮があった。
国家主義的な教育政策をしたがる政治家は改憲派。河野洋平総裁の時には、綱領から憲法改正を外そうという議論もあった。
小泉政権ではまだまっとうな議論が可能だった。
菅「政治家の覚悟」には、人事で官僚を支配したと自慢している。
加計学園問題は政治権力の私物化である。（四国に獣医学部がないからと言う理由で）愛媛県今治市が選ばれた。
京都産業大学も学部新設を希望したが、すでに隣の大阪府大にあるので、京都府では認められなかった。
最終的に官僚は政治家に従うべきで、官僚主導はあってはならない。しかしながら、政治家はかっての政治家がそうだったように「権力は暴走する」という自戒があるべき。
★海風注：
かっては寛容で包容力のある自民党だった。
国家主義者＝改憲派
官僚の人事を支配
加計学園は権力の私物化
第６章 派手な印象だけの９年、過ぎてみれば焼野野原状態に（古賀茂明）
官僚を敵に回すと族議員を敵にする。だから、なかなか行政改革ができない。
地に落ちた倫理観。
安倍は憲法改正など力を入れていることが明確で、経済政策などにはこだわりがなかった。
メディア支配を可能にしたアメとムチの三層構造。
安倍がテレビ局や新聞社のトップを抑える。次に官房長官が、有識者や各社の幹部を抑える。そして、現場に対しては今井秘書官が締め上げる。
台湾有事になれば日本が巻き込まれる。しかしそうなると中国からミサイルが飛んでくる。それだけは絶対に避けねばならない。
今は経済と国民生活の再興に力を集中すべき。それができれば日本の安全保障になる。
★海風注：
官僚と族議員を動かせず行政改革ができなかった。
倫理観無し
メディア支配
台湾有事に巻き込まれる危険
軍事でなく経済再興で日本を守る
第７章 アメとムチの支配に踊らされたメディアの責任（望月衣塑子）
メディア支配
第８章 信念を語る政治家はなぜ自民党から消えたのか（小沢一郎）
★海風：まとめ
１．キー・ワードの整理
� 嵶冤�観が無し」はほぼ全員が言っている。
しかし、倫理観とはかなりあいまいな概念で、むろん計測できない。
�∩�挙で信任されるのかについては、二人の学者が反対。逆に政治家は自身は選挙で信任されたとしている。だから政権や自民党に対しても主張する（できる）。
➂９条の改正は石破氏だけ。石破氏は、集団的自衛権については民主党も賛成したと言うが、党内の村上議員を説得できていない。
�じ轍譴繁招遒蓮�安倍政権はメディアを支配したと言うが、彼らは、ほとんど批判一色の新聞テレビを見ないのか？ それともメディアが支配する政治を理想としているのか？
�グ打楹宛鬚亡悗靴特�も評価していないし、関心もなさそうだった。
２．総括
かっては、外交は票にならないとされてきた。所得の向上や公共施設の充実を求めて来たし、政治家も自分の選挙区に施設を誘致しようと活動した。
しかし、それらが満たされ、外交官や商社員だけでなく、一般人も外国へ行くようになると、世界の中での日本の位置づけが気になってくる。
内田は時の政権を評価できるのは国内の選挙ではなく国際社会の評価だと言うのだが、その前に、日本人、日本という国が、そして日本の文化・伝統がどう評価されているのか気になるだろう。
外交は実利よりもその国のインフラだと言っても良い。フランスは、フランス文化の売り込みで成功したのはよく知られている。
古賀は安倍は憲法改正に注力していたと言うのだが、それも一つと言うことで、結局、成果を上げたのは外交であり、日本で初めての国際的影響力を持つ政治家になった。
太平洋は戦後はアメリカの海になっていた。しかし、中国の台頭で微妙な状態になったのだが、安倍首相はインドを巻き込み、中近東からインド、東南アジア、台湾、日本を繋ぐ連携を、インド・太平洋構想として提案した。これは中国の膨張主義的な一帯一路や南シナ海支配に対抗する意味があるが、それ以上に民主主義国の緩い連携であり、経済圏（TPPなど）や軍事同盟（クワッドなど）に発展する母体ともなる。
その成否は大国のインドを巻き込めるかどうかにかかっている。その点、日本はインパール作戦から東京裁判（無罪を主張したパール判事）への歴史過程の中でインドと信頼関係にあった。また、東南アジアとも、戦後賠償・援助を通じて、それ以前の戦時中の宗主国からの解放を通じて信頼関係にあった。
ただしアメリカの植民地だったフィリッピン以外はだが、フィリッピンは戦後過程の中でアメリカの基地を追い出して、中国に南シナ海を取られてしまった。
さらに第一次大戦後の信託統治以来、太平洋諸島の関係も良い。
内田は安倍をアメリカに追随する国家主義者と言うのだが、日本の明治以来の歴史的存在感を踏まえて、米英を補う国際的連携を目指したのである。英国は植民地大国としての負い目がある。インドとの関係も日本が間に入らなければ成り立たないはず。
つまり白井聰のいう永久敗戦から脱却し、対等の関係を築きつつあったのである。
最後に、選挙の意味に触れておく。言うまでもないことなのだが、立憲君主制・代議制民主主義国の日本は、総選挙によって選ばれた議員が（三権の最高機関）国会を構成し、その国会で選ばれた議員が首班となり内閣を組織する。
これが日本の憲法に従った民主主義のはずだが、二人の学者は選挙だけでは国民に信任されたことにならないと言う。私的機関が民主主義の計測とかいう順位付けなどをしているが、その上位にいることが信任されたことになるらしい。しかし、それは憲法にないことで、とうてい立憲民主主義とは言えないのだが。
しかしどうして安倍首相は新聞や指揮者・コメンテーターから不人気なのだろうか？ この謎については、改めて検討したい。
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