北条で9人、全部かき集めて18人とはあまりにも兵が少なすぎます。
とはいえ、坂東の田舎者と小馬鹿にしているだけでは兵は増えないと、
自分のカリスマ性をフル活用して、
「実は一番頼りにしてるのはそなたじゃ」と節操なく口説きまくる頼朝です。
それを義時が口あんぐりで見ているのもなかなかよく効いており、
一所懸命に土地の安堵を気にしていたのに頼朝登場にコロリと参る土肥実平を演じた、
三谷の腹心の一人、阿南健治の仕事師ぶりも見事でした。
もともと吾妻鏡にある伝承を、コメディ要素も含めてよい見せ場にしてくれました。
その一方で、女たちも自分の戦いをしています。
合理的なりくは戦いを男たちに任せ、もう戦後に建てる館のことを考えています。
いろいろあがいていた政子も、頼朝を安らがせることが自分の役目と心得たようです。
まだ子どもの実衣は、自分だけが何も聞かされていないことが不満です。
そして、何といっても八重です。
義時の八重への憧れ、八重にとっては若い甥でしかない義時、
八重のいまだ断ち切れない頼朝への思いが化学反応したかのように、
思いのほか大きく物語を動かしていきました。
八重の身を案ずる義時は、八重が秘密を守ってくれるものと信じて挙兵を示唆し、
当然のように八重は、父の伊東祐親に報告します。
単に正直なだけで、相手を縛れるものではありません。
八重にすれば、まだ義時はたしなめねばならない子どもでした。
しかし、再度、山木の居所を尋ねに来た義時は違いました。
伊東祐親は頼朝を殺すだろう。平家の世が続けば飢饉で民が死ぬだろう。
こうした言葉で心の芯をつかまれた八重は、
山木の居所という大切な情報を、頼朝との二人だけの秘密を使って届けます。
三島の祭礼の夜、八重と江間の前を北条宗時が率いる頼朝の兵が進みます。
それが何かを察知した江間は、伊東への報告のためにそっと消えます。
八重は、自分の放った矢の意味が頼朝に伝わったことを知るとともに、
頼朝が死ぬか、自分の父が死ぬかの戦いが始まったことも知るのでした。
というわけで、今回の秀逸は、
第1回・第2回のコント仕立ての頼朝が残念でならない今回の挙兵の檄の見事さでも、
全部同じクジを引かせるとか、「仮の話として」と本音の話をするとか、
「真田丸」(真田昌幸)や「新選組!」(有馬藤太)で見おぼえがある三谷好みの細工でも、
前のめり気味なのがかえって恐ろしい、
政子の「わたし、何をしでかすかわかりませんから」の持つホラー感(予告)でも
さんざん「お前だけが頼り」と言ったことへの因果応報のような、
頼朝の夢に登場する後白河法皇の「おぬししかおらんのだ」攻撃(毎晩)でも、
緊張を和らげるためとはいえ、あまりに自然な「ちびった」と、
直後の「なんつって」の間の絶妙さと、それでもカワイイ時政の人徳でもなく、
冒頭の軍議から良い声すぎる片岡愛之助演ずる北条宗時の、
早口でも滑らかなセリフ回しの中、とりわけはっきりと聞かせてきた「鎌倉」の一言。
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