中央と地方の距離は、「真田丸」(の超高速関ヶ原)でも描かれました。
中央の出来事は人や手紙から推測するしかありませんが、
それが信用できるかどうかがカギになります。
頼朝が京で勤めた時政に頼り、時政が公家出身の妻りくに確認するのもそんな事情です。
そもそも坂東まで入ってくる情報はかなり怪しく、
叔父の行家は疎遠な上にいかがわしい、三善康信は筆まめだが慌て者、
文覚に至っては正体不明の乞食坊主にすぎません。
三浦義澄が院から直々にもらったはずの密旨も、実は使者から渡されただけでした。
しかし、字は読めないが洞察力に優れた政子が本音を明かさない頼朝の真意を見抜き、
策士の義村が300人の兵が必要と挙兵の成功可能性を値踏みし、
実務家の義時が種もみの木簡から双方が動員できる兵力を見抜いて具体策に仕上げます。
これは、もう挙兵しちゃえというところです。
お告げや呪術が科学として通用した時代ゆえに、
誰の髑髏ともわからぬものでも、平家に対する怨念の憑代となり、
後白河院から渡されたとされる手紙であれば、それは密旨になりうる。
そんな大義名分が、300の兵を本当に3000に増やしてしまうのでしょう。
第1回では頼朝が北条に転がり込み、第2回では挙兵の意志を義時に伝え、
5年を経た第3回ではついに挙兵する、軸ははっきりしています。
しかし、その周囲に多くの人をからませ動かすことで、彩りある物語に織り上げました。
三谷、さすがです。
ただ、セリフを追う限り、脚本が頼朝に期待しているのは深い闇のある貴公子であり、
大泉洋はそんな演技もできるし、三谷もそれを見せたかったのでしょう。
しかし、寝汗の答え合わせでもある「枕元の後白河院」の描写を見ていると、
大泉と西田ならコントでいいだろうという粗さが感じられました。残念です。
というわけで、今回の秀逸は、
こっそりと種をまくように要所で語られる日照りからの長雨という飢饉の予感でも、
役名の由来どおりに、へらず口も物怖じしないところもリトルミイそのままな実衣が、
政子の「食べるものがなくなるかも」に即座にかぶせてきた「半分にしましょう」でも、
ほとんど事前告知もなく数場面しか出番がなくとも源頼政として強い印象を残した、
転形劇場の創立メンバーで出世作「小町風伝」にも出演した齢86歳の品川徹の気骨でも、
川向こうの八重に平気で手を振る政子の微笑みを成立させた
伊東邸単独訪問で八重から継承した頼朝の妻としての(政子なりの)正統性でも、
高い声で若さを強調しつつ、デレデレモードの時政の尻を叩き、
今後、裏で歴史を動かしていく予感が十分な宮沢りえ演ずる後妻のりくでもなく、
りくを相手にどんなに可愛い演技をしても締めるべきところはきちんと締める、
時政を演ずる坂東弥十郎の歌舞伎ならではとも言えそうな復元力の強さ。
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