国のために働く栄一は、大商人を手玉に取りつつ国立銀行の設立のために奔走する中、
自分が憎き岡部藩の役人と同じようなふるまいをしていることに気づき、
大蔵省を辞め、民として生きることを決意します。
いかにもワクワクする新しい日本と栄一の青春物語です。
栄一が「廃藩置県後の処理なら大いにやれ」と大久保の言葉を逆手にとったり、
外国人が来ることさえ反対する者のことを惇忠が「昔の俺たちと同じだ」と理解したり、
三野村が「商人は地面に這いつくばったまま」と栄一に毒ついたり、
痛快なセリフや重いセリフもありましたが、これは表の話です。
「青天を衝け」は、それぞれの立場で国のために働く男たちを描きつつ、
描かれることが少ない「その妻」たちの暮らしと思いをともに描き続けてきました。
今回は、女たちの大切な思いがいくつか吐露されました。
それは、昔のような夫唱婦随の夫婦描写とは一味違うものがあります。
栄一が妊娠したくにを連れてきた時、千代は邸内に住まわせることを許します。
当時、妻妾同居はよくある話で史実なのかもしれませんが、
千代が大きな度量で収めたことにはせず、といって怒ったり泣いたりの発散もさせず、
思いを抱え続けながら深く嘆息をつくという描き方をします。
上野から函館まで戦い続けたあげく、2年半ぶりに釈放された喜作が、
あっという間に時代に追いついて、今度はイタリアに行ってしまったことに、
「せっかく来たっつんに、喜作さんは異国に行っちまって」と
妻のよしが嘆くのをきちんととらえます。
「ずうっと男たちを見ているだけだった」「何も知らせてもらえねぇで」
「その惇忠が頭を下げて助けてくれと頼んでいる」と母のやへがしみじみ言ったのも、
天狗党との関係が疑われ惇忠と平九郎が捕縛されたとき、
半狂乱になるほど怒りを爆発させただけに説得力があります。
ともすれば時代を作った英雄と祀り上げられてきた男たちを、
家を顧みず、英雄気取りで勝手なことをするばかりという思いは、
血洗島の女たちだけではなく、
「青天を衝け」に登場する女たちに通底するものだったと言えそうです。
そして、刀をとって戦った喜作が算盤を手放さなかった栄一から後れを取り、
(この大河では)戦争マシーンの西郷が新政府で所在無げだったりすることで、
時代の中心が戦いから商いに移りつつあることを示唆した上で、
仮面ライダーメテオこと栄一は最後の変身をします。
ということで、今回の秀逸は、
実は関西圏の三重県出身で小倉久寛の小野組番頭のよどみのない関西アクセントでも、
ねらってきているように見えて史実の「三井組ハウス」のリハウス感でも、
棟梁の清水喜助の名で気づく日本を代表するスーパーゼネコンの歴史でも、
この大河では挽回不可能な大久保の憎まれ役ぶりでも、
後の時代の女工哀史ぶりとはうらはらな官立富岡製糸場のホワイト企業ぶりでも、
本当に一瞬だった回想ながらもザッパーン枠を確保した
慶喜の「渋沢、この先は日本のために尽くせ」の一言でもなく、
不幸な結果に終わった、あの時代には不似合いなロマンチックラブの後に、
多くの人を抱えている渋沢家のためにはどうしても必要だった、
親戚筋から婿を取って家を継がせることにした栄一の妹・ていの現実の人生。
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