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2019年04月29日16:28

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木皿泉「カゲロボ」を読む

前2作が連続で本屋大賞にノミネートされた夫婦脚本家・木皿泉の第3作である。

カゲロボって何?
小中学生の間で都市伝説的に伝わっている存在で、
人間そっくりのロボットが職場や学校に入り込み、虐待やイジメがないか監視していて、
そんな行為があったら内蔵されたカメラに記録され、ケーサツに提出されるらしい。
ネットにもまったく記事が出ないのは、書かれたらソッコー消されるから。

ホントかあとは思うのだが、ないという証拠もない。
ある事件をきっかけに、主人公が通う中学校にカゲロボがいるという噂が出まわる。
中学生らしいふわふわした危なっかしいいくつかの事件の後、
カゲロボがいたのか、いなかったのかよくわからないまま物語は終る。
そんな短編が9作並んでいる。

これまでの2冊は登場人物や舞台設定が共通している短編連作だったが、
「カゲロボ」では、後半で登場人物を使いまわしたネタも登場するものの、
直接的にはつながりのない物語が9本並べられている。

しかし、どの作品も「カゲロボ」同様、非常に出来の良いロボットらしきものが
「登場する/存在しているかもしれない」ことで、
しばしば未熟なゆえに乱暴で残酷だったりする子どもたちや、
それなりに経験を積むことで狡猾で身勝手になった大人たちが、
困惑し苦慮した結果、それでも自分で何かを選択することで少しだけ救われる。

小説新潮などに掲載されていた作品だが、
「カゲロボ」は「かお」に改題され、
他の作品も、「あし」「めぇ」「こえ」「ゆび」「かお」「あせ」「かげ」「きず」
という身体の一部を思わせる題名に改められている。
(「めぇ」というのは「目」の関西流の言い回しで、
 「てぇ(手)」「はぁ(歯)」「きぃ(木)」「ひぃ(火)」と一音語を伸ばす傾向がある。)

それは、ロボットが人ならぬ身にもかかわらず感じさせた「肌触り」のようでもあり、
そのことに生身の人間だからこそ感じてしまう「痛み」を象徴するようでもある。
そんなわけで、あえて分類すればSFに属するものなのかもしれないが、
読み心地としてはヒリヒリとした学園ドラマを見ているような奇妙な感覚に陥った。

そして、「人とは何か」「人の痛みとは何か」というような実は重苦しいテーマを、
学園ドラマのように平易な語り口で描かれた粒ぞろいの短編集だけに、
今度こそ本屋大賞も狙えるんじゃないかと、かなり本気で思っている。

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