１枚目 見瀬丸山古墳（陵墓参考地） 蘇我稲目
２枚目 宮山古墳 葛城襲津彦
３枚目 津堂城山古墳（陵墓参考地208メートル） 被葬者不明
この古墳から宮山古墳に匹敵する巨大長持ち型石棺が出土した。
矢澤高太郎「天皇陵の謎を追う」中公文庫2016（「天皇陵」2012改題）
著者は1947−、読売新聞古代史担当記者
本書は天皇陵の悲惨な現状報告または事典というべき内容である。
悲惨というのは、�‥傾栂佑諒歛絃�態で、これではとても世界遺産にならないこと、
�� その名の天皇陵であると確実なのはごく一部に過ぎないこと、である。
天皇陵の学術調査ができないことから、そもそもそれが天皇陵かどうかも怪しいのである。しかし、例え、内部調査ができたとしてもエジプトみたいに名前が書いてあるわけではないので、所詮、遺物から推定する以外にないのだが。例えば、高松塚も被葬者は分からないままである。
天皇陵かどうかは、古事記、日本書紀の葬送記事、平安時代の延喜式（その中の古墳の台帳）で判定するしかないのだが、同じ場所に古墳が沢山ある場合は決めかねること、この場所にこれしかないという場合でも、どうも墓の様式が時代に合いそうにない、などと困るのである。それで陵墓参考地などという補欠を指定して、これも宮内庁が管理している。
そもそも外観からは、天皇なのか皇后か、あるいは皇子、皇女かもわからないし、他の豪族とも区別がつかないのである。
私にはむしろそれが面白いと思うのである。
なぜ、天皇は自分たちの墓を見ただけで分かるように差別化しなかったのか。
なぜ、他の豪族と同じ場所に作ったのか。
答えは一つしかないのではないのか？ ただ単に、「天皇」と豪族の間に、大きな格差がなかったからである。いわば、比較的大きな豪族という位置づけだったのである。
たとえば、雄略天皇は臣下が天皇家並みの屋敷を作ったのを咎めて屋敷を壊したとのことである。
蘇我氏は天皇をも上回る権勢だったことを咎められ、皇子時代の天智天皇によるテロとクーデターによって滅ぼされた。天皇家の権威が名実ともに確立するのはその時、つまり大化の改新からだし、天皇号もその時からである。
雄略天皇（だったと思うが）の事例は、機会があれば豪族の力をそいでいった例なのだと思う。
どうも著者には、大きくて立派な造りのものは天皇陵に違いないという思い込みがあるようだ。古事記、日本書紀ばかり読んでいるとそうなるのかもしれない。岡山に全国４位と10位の前方後円墳があるが、著者には陵墓参考地に指定されないのが不審らしい。吉備津彦ではダメなのか？
著者も書いているのだが、奈良県御所市の宮山古墳（室の大墓）は葛城氏の祖の葛城襲津彦の墓とされていて、巨大な長持ち型石棺が出土してという。長さ240メートル、全国18位の前方後円墳だとのことである。
また、橿原市の見瀬丸山古墳は318メートル、全国６位の前方後円墳の陵墓参考地であるが、近年、蘇我稲目の墓説が有力になっているという。かっては、欽明天皇陵とされていたこともあるが、今は１キロ弱南の梅山古墳（140メートル）が欽明天皇陵として指定されている。稲目も欽明天皇も同時代の人なのだが、蘇我氏の権勢を見せつけるかのような巨大さである。
見瀬丸山古墳は蘇我氏の本拠の明日香村の甘樫丘から西へ１キロ弱、馬子の石舞台古墳から西北へ２、３キロほどで蘇我一族の本拠地にあるのである。
平城京（奈良の都）は元明天皇によって建設されたのであるが、その時元からあった古墳が削られていたことが平城宮址の調査によって発見された。それまでは円墳で平城天皇の墓とされていたのである。しかし、これもおかしい。平城天皇は桓武天皇の皇子で平安時代の人。古墳時代でもないのに巨大古墳でもないのであるが、調査によって元は前報後円墳であって、都を作る時に前方部を削って円墳にしたことが分かったのである。元は250メートルで全国14位の巨大古墳だった。他にも古代の時点で壊された多数の古墳があるという。
この出来事に関して、著者は元明天皇が先祖の墓を壊すはずがない、一方、この巨大古墳は天皇陵にふさわしい。よって、天皇家は一系ではなかった疑いがある、という三段論法を展開している。しかし、宮山古墳や見瀬丸山古墳、それに岡山の二つの巨大古墳など天皇家と関係ない豪族の巨大古墳はいくらもあるので、この論法は成立しない。
要するに滅びた豪族の無縁墓になっていたのである。
で、結論だが、大化の改新までは天皇家は他の豪族と支配―被支配の関係はなかった。それはアマテラスと八百万の神に似た関係だったのだろう。
倭の五王だとか稲荷山古墳の鉄剣（雄略天皇の名が記されている？）をもって、大和朝廷の関東以西支配が確立していた、などとあるわけがないのである。
ログインしてコメントを確認・投稿する