１枚目 永田鉄山
２枚目 真崎甚三郎・・・彼の更迭が永田鉄山暗殺の動機になった。
３枚目 満州の岸信介 ネットから。
早坂隆「永田鉄山 昭和陸軍「運命の男」」文春新書2015
1884（明治17年）生−1935（昭和10年）死
インパクトのある題名なので、期待して読んだのだが、まあ普通の伝記だった。永田鉄山で知っていたのは、相沢三郎に陸軍省の局長室で殺された時の遺体の写真だった。私にとっては、永田は東条英機や石原莞爾の影に隠れた脇役に過ぎなかったのである。
永田は山梨県の当時の諏訪村に生まれた。同級生には生涯の親友になった藤原咲平がいた。中央気象台長で新田次郎の叔父である。また、岩波茂雄とも幼馴染だったとのこと。意外な人脈である。
１．総力戦対策と長州閥人事を実力本位にすること
彼は陸軍幼年学校、士官学校とずば抜けた秀才で、さらに陸軍大学校は２番目の成績で卒業したという。1913年にドイツへ軍事研究員として留学したが第一次大戦の勃発で帰国せざるを得なくなった。続いて、1915年に今度はデンマーク・スウェーデンへの留学を命ぜられた。研究テーマは総力戦研究だった。そしてこれが永田の生涯の仕事になる。
1920年にはオーストリアへ留学した。この時、武装中立国のスイスの感銘を受けている。スイスでは岩山をくりぬいて軍事基地を張り巡らし、焦土戦術も辞さない。国民皆兵であり総動員体制に協力していたのである。
ところで留学中の1921年に、小畑敏四郎（ロシア駐在武官）、岡村寧次（出張中）とドイツの保養地バーデン＝バーデンで集合し、盟約を結んだという。�々駝韻閥Δ砲△詢Ψ海鮑遒襪海函�これは、第一次大戦後の戦争になる総力戦の絶対的要件であると考えられた。
�⊇祥茲猟構Ｈ兇�ら脱却するための人事の刷新の二つである。
・・・確かに、二つとも大問題になった。
☆海風：
永田が国家総動員体制の理想国家としてスイスを評価していたのは意外だった。戦後日本は東洋のスイスになるべき、との主張があったが、その時は鳩時計の平和国家（グレアム・グリーン「第三の男」の揶揄）だと思い込んでいたが、永田の理解ではハリネズミ防衛論に近いものだったようだ。戦後の東洋のスイス論はどちらが真意だったのか？
ところで、国家総動員体制は軍国主義の最悪の姿として理解されているのでないか。朝ドラなどで戦前戦後をまたぐドラマは、たいていそのように描いている。著者は永田の理想がスイスにあったというのなら、それを実現させた近衛・東条の体制が捻じ曲げられたのか、それとも日本的にそうなってしまったのか検証すべきであったと思う。そうしなければ、結局永田も東条のようなレベルと理解されてしまうだろう。
東条が総力戦研究所を作って日米戦の図上演習をさせ、敗北との結果にもかかわらず無視して開戦に踏み切った。東条は中途半端な永田だったのだろうか。
永田は部下の武藤章に「鉄山院殿合理適正大居士」とあだ名されていたそうである。合理適正が口癖だったのだろう。だとすれば、不合理な開戦に踏み切ることはないと思われる。一方、海軍は開戦するなら（石油のある）今しかないと主張した。開戦しろと言っていないのがミソというべきだが、永田はこんな綱渡りをしただろうか？
２．近代兵器の国産化
1926年永田は陸軍省整備局の初代動員課長に就任した。取り組んだのは、自動車産業の育成である。軍用トラックの国産化が必要だった。永田は自動車会社関係者を集めて合併や共同出資によって技術開発をしてゆく体制を整えたのである。
☆海風；
1932年建国した満州国に、1936年に赴任した岸信介は日産コンツェルンを招聘して自動車製造を依頼した。今のニッサンである。岸はまだ日本の商工省の課長時代に自動車製造法を作っていたのであるが、この事業などは永田の後を引き継ぐものと言えるだろう。
３．軍事行動で張学良政権を倒そうとする関東軍対策
関東軍対策 陸軍五課長会議 1931年６月
「満蒙問題解決方策の大綱」決定・・・主旨は１年間の猶予をもって張学良と交渉し、 その間関東軍の軍備を充実させるというものだったが、それを見た石原莞爾に計画を前倒しされてしまった。
1931年９月 満州事変
☆海風：
永田は満州国を独立国とせず、いずれ中華民国に引き渡す地方政権（つまりは張学良政権の後継政権）とするべきと主張していたが石原莞爾に押し切られた。その石原も満州から中国へと戦線を広げようとする後輩の関東軍参謀たちを止めることはできなかった。
確かに、この時永田がいたら関東軍参謀を更迭してでも止めていたかもしれない。とすれば、中国戦線の拡大はなく、日米戦の理由もなくなった可能性がある。ここに運命の男と言われる理由があるに違いない。
４．過激な主張をする皇道派の軍中央からの更迭と皇道派の反撃
1932年５月 五・一五事件
1934年 斎藤実首相 皇道派の中心人物 荒木貞夫陸相病気辞職 後任林銑十郎
1935年７月 陸軍三長官会議（林陸相、閑院宮載仁（ことひと）親王参謀総長、真崎教育総監） 皇道派の中心人物 真崎甚三郎教育総監解任 後任・渡辺錠太郎（2.26で暗殺）
1935年８月 皇道派の柳川平助陸軍次官、山下奉文軍事課長更迭
1935年８月 相沢中佐 永田鉄山軍務局長を刺殺
1936年２月 二・ニ六事件
☆海風：
著者は真崎の更迭時に、永田の意向はなかった。積極的だったのは林陸相だったとする。ただ、民間と組んで積極的に天皇親政を実現しようとする皇道派に困っていた陸軍や皇族の一部が主体だったとはいえ、永田の意向は言わなくても分かっていただろう。皇道派の更迭は永田がやっていると見られても仕方がなかった。そもそも、バーデン＝バーデン密約には人事の介入があるし、後に永田と決別して皇道派の中心になった小畑敏四郎もその盟約を結んだ一人なのだから。
複雑なのは、皇道派はソ連との対決を目的としているので、石原と共に満州国を守ったかもしれないことである。ただ、著しく合理性を欠いて、人気に頼るポピュリストに似ているので当てにはならなかった可能性の方が大きい。
ということで本書は、永田鉄山入門編というところであろう。
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