著者は1930年生。「逝きし世の面影」など。石牟礼道子に執筆を勧め世に出した。
本書は、スタジオジブリの雑誌「熱風」にのった「渡辺京二ロングインタビュー・近代の恵み」をもとにして、時論や書評を併せたものである。
�機〇�論
�供．ぅ鵐織咼紂�
�掘‘表馥�記
�検々峙繊．櫂薀鵐法爾鬚匹ζ匹爐�ー共同主義の人類史根拠・・・省略
１．巻頭の書下ろし「さらば政治よ 旅の仲間へ」
私は集団的自衛権を行使すると戦争になる、戦前の日本に似てきたなどという意見には、常識で判断したいと思っている。常識とは自分の持つ理性の働きから普通に出てくる考えのことである。
�，泙此�日本の世相が1930年代の戦争直前期に似てきたという人は、無知でなければデマゴーグである。
その時の日本は天皇制帝国主義国家だった。大東亜共栄圏の実現をもくろんでいた。そのような政治スタンスと似たものが、今の日本のどこにあるか。
いまの中国は南沙諸島など東アジアの海域を軍事的に支配しようとしている。日本の自衛隊は自制し、「右傾」安倍政権でも国外に帝国主義的支配を及ぼそうとしていない。
戦前の神聖犯すべからざる天皇陛下と、今の園遊会での天皇夫妻の態度とどこが似ているのか。
��安倍内閣は歴史修正主義の傾きを持っており、過去の悪評の弁明をしたがっている。それでも、近隣諸国の反発を恐れて自制する分別を忘れていない。
安倍自身はナショナリスティックな気分の持ち主だが、その程度のことは世界中の国家指導者も同じである。
ネット上でのヘイトスピーチや新宿周辺での嫌がらせデモなど以前にはなかった現象だが、この程度の排外主義はヨーロッパも同じことである。むしろ、この現象は戦前への回帰ではなく、新しいグローバリズムの所産なのである。
韓国や中国のいつ果てるのかわからぬ植民地時代、被占領時代への怨恨に対する感情的反発に過ぎない。韓国や中国はまだナショナリズムの段階にあり、日本のそれは敗戦により死んだのである。
�０打椶�自衛権を拡大解釈する前から自衛隊はあった。憲法九条は自衛権を否定しないと解釈したときに日本はすでに戦争をできる国になっていた。だいたい、戦争とはほとんど自衛戦争なのである。中国でさえ、西沙諸島にミサイルを展開して自衛措置だと主張する。
いったん軍事同盟を結んだら（日米安保条約）、双務的義務を負うのは当然のことである。国連軍の軍事行動もある。これへの参加は加盟国として回避できぬ義務である。
�す餡函淵優ぅ轡腑鵝Ε好董璽函砲鮃柔�する主体は、一面では国民（国民国家）、一面では民族（民族国家）の性格を持っている。
国民国家はフランス革命で成立した。国民の意志によって成立し、国民の幸福に奉仕する。したがって、国民は国家を守るために戦って死すべきである。これが近代民主主義国家なのである。
戦後の福祉国家の進展は、国家は大ブルジョワジーの道具だという単純なスローガンを無化するのに十分だった。国家の経済的ファクターが悪化すれば資本家が困るのではない。それは、庶民の台所を直撃するのである。
ネイション・ステートのもう一つの側面は民族国家である。第一次大戦中に、米国大統領ウィルソンは民族自決の原則を掲げた。その結果、中欧に小さい独立国家がたくさん生まれ、かえって収拾のつかぬ国際紛争を生むことになった。
グローバリズムは国境を消失させ、国民国家の存在意義を縮小するというのは真っ赤な嘘である。民族間の距離が消失して接触が深まったからこそ、民族問題が深刻化するのだ。民族は歴史の累積的所産であるので主観によっては超越できない。私（筆者の渡辺）はずっと自分が日本人ではないような気分でいたが、かと言って、ほかの何国人でもないのである。
わたしたちは国民であり、民族であることから逃れられない。
☆海風：
きわめて常識的な現状の観察だと思う。
フランス革命によって成立した国民国家（福祉国家）は、国家を守るために国民の死を要求してきた。何も戦前気日本だけではないし、集団的自衛も当然のことなのである。
選択すべきは、どこと同盟すべきかということだろう。戦前日本はイギリスとの同盟を破棄し、国連からも脱退して、勢いのあるかに見えたドイツに賭けてしまった。それが破滅のもとだった。
今、アメポチなどと揶揄したり、永続敗戦などと奇妙な理論を作ってアメリカとの同盟を解消させようとしている人々がいる。リベラルの中にも同調者がいるようであるが、アメリカに問題があるごとく、戦前のイギリスにも問題があった。なにしろ植民地帝国であり、アジア諸国の独立運動家たちは日本の援助を求めていた。
今、反戦・左翼リベラル派の言うようにアメリカとの同盟を止めてどうするのか。国連は大国の小田原評定の場に過ぎない。東南アジア諸国（アセアン）は中国とアメリカの両方からの援助を求めている（つまり、漁夫の利）。
結局、アメリカか中国しかない。だとすれば、近代国家であるアメリカしかないだろう。韓国を見ていると法治がないことを自慢しているように見える。共産党の中国も同じことである。
反戦・左翼リベラルによる、共謀罪反対の主張は反米・親中のためのプロパガンダにすぎない。なにしろ、世界のどの国にもある法律を日本にだけは持たせないというのだから。なくて喜ぶのはスパイ網を巡らしている中国なのだから。
以上のことは、著者の渡辺氏の主張の延長にあると思う。
問題は、渡辺氏のような本来のリベラルの主張が本流になっていないことであろう。その大きな要因は、「戦争反対」という主張に反論できない戦後から続く状況にあると思う。たとえば、自衛戦争も認めない漫画家のやくみつる氏は、攻めてきたら降伏すると公言する。彼は９条絶対論者だと思うが、日本が中国でも南北朝鮮にでも占領されたら（抵抗しなければ、どこにでも占領される）、日本の憲法は停止されるのだが、それはどう思っているのだろう。つまり、渡辺氏が言うように、憲法（つまり、国体である）を守るためには戦争しなければならない時があるのである。戦争は絶対悪ではない。
毎年、この季節になれば、どの新聞も戦争の悲惨を繰り返し、戦争はあってはならないという。しかし、本当にあってはならないのは、ナチスドイツのホロコースト、ソ連による粛清やシベリア流刑であり、中国の文化大革命にポルポトの国民虐殺であろう。スターリンや毛沢東は、自身の眼鏡にかなう人間以外の存在を認めなかった。
新聞やテレビも常識を取り戻してもらいたいと思う。
２．インタビュー（「逝きし世の面影」の解説）
幕末から明治初めにかけての外国人見聞記は膨大であり、一様に、人々の表情が「非常に明るい、幸せそうだ」という印象を持った。幸福感や満足感が庶民の中に現れていることに注目したのである。
しかし、明治の史学界は江戸時代を蒙昧な時代と言わないと維新革命を正当化できなかったし、戦後はマルクス主義史学の支配によって飢餓と一揆の時代として描いた。（柳田国男は、それをたしなめていたが）
イデオロギーの支配によって、その文脈に適合しないものは無視される。
旧ソ連の強制収容所の存在は早くから知られていたが、広く問題視されたのはソルジェニーツィン「収容所群島」が翻訳された時だった。フランスのサルトル以下の左翼知識人も同様であった。
「逝きし世の面影」は、ただ「外国人がこう言っているよ」ということを、広く文献にあたって書いただけだった。
ただし、よく誤解されるように「昔はよかった」と言いたいわけではない。文明社会にはいろいろなタイプがあることを確認して、現代社会を相対化する視点を持ちたかったのである。
イサベラ・バードが新潟へ行って驚いたのは、店が細分化（ニッチ）していて櫛だけ、とか扇子だけというように専門化していることだった。職業が細分化していて豊かでなくても最低限の生活は保障されていたのである。（今でいえば、ワーキング・シェア）
出島のオランダ人によれば、法は厳しく十両盗めば打ち首だった。しかし、奉行所では、二十両でも三十両でも、九両五分として自白させていた。実態では寛容に運用していたのである。それをナイブン（内分）と言っていたとのことである。（ということは、八百屋お七は奉行所で、お前は十四だなと尋ねられたが、いいえ、十五ですと答えて処刑されたとのことだが、子供の処刑はないので奉行はナイブンにしたかったのか？）
それでは、なぜ維新革命が起きたのか。
開国したことにより、西洋文明をみて、近代化しないと日本は全部やられる、という危機感を持ったことが大きい。国際市場というのは、優位を失ったら負けて破産する競争だと実感したのである。日本の政治体制も天皇と将軍がいてどちらが決めるか、ということでは通用しない。
将軍中心の漸進的な近代化もあり得たかもしれない。しかし、過激な近代化を選び、それに成功した。国民の高い教育水準、そして産業革命（industrial revolution）ならぬ勤勉革命（industrious revolutionそれまで以上の労働力の投下）が起きたとの説がある。石門心学などが庶民に勤勉が大事だと教えたのである。
江戸時代になって、それまでの信仰の時代が終わり、世俗化が進んだ。ただし、誤解されるように無宗教になったわけではなく、教義の信仰でなくアニミズムの信仰に戻ったのである。（神は細部に宿る）
長い間、人間は天下国家に理想を求めてきた。しかし、キリスト教の千年王国から毛沢東まで地獄をもたらしただけだった。国家は、せいぜい利害調整でよいのである。
☆海風：
渡辺は、若いころは全面講和だ、警職法だ、安保反対などと普通の左翼青年であったとのことだが、「逝きし世の面影」を書いたころには、脱イデオロに成功していたのだろう。だから、八十五歳になったから「さらば、政治よ」ではない。「旅の仲間よ」などとトールキン「指輪物語」みたいだが、彼の旅はポランニーのいう「共同主義」社会へ向かう旅らしい。むろん、精神上の旅であって、江戸時代のような別のシステムの可能性を追求したいに違いない。
私などは、面倒なのでこのままでいいと思っている次第である。
著者が言うように、日本人は万物に神が宿るとする神道とか天台本覚思想とか、そういう感覚なのだろうと思う。俳句なども一連のものだと思えるが、無宗教だとかアニミズムだとかでなく、もう少しよい言葉があれば堂々と人にも言えると思うのだが。まさか、アニミズムを信じています、などと言えるわけがない。ということで、無宗教に落ち着くのだと思う。
３．書評から石牟礼道子に関するもの
�￣碓耄完賚此峩豎�浄土論」は石牟礼道子の文学的本質を開示した。
「苦界浄土」三部作は水俣病だけをテーマにしたものではない。臼井氏はバッハオーフェン「母権論」を準拠枠とした。それも母権論を「太古の大地の生命観を、現代のセメント漬けにされた世界に蘇らせたことにある」と読み取ったのである。
臼井氏は、石牟礼が谷川雁の、原点に降りて行けというテーゼを「わたし家（げ）の方角」と受け取り、高群逸枝を受胎することによって、太古の母権的世界、文字以前宗教以前の、人も生類も山河も、万物が交感する生命世界、「原郷」「原語圏」に慕い寄る。これが苦界浄土の基本構図なのだ。
石牟礼は「銭はいらん。かわりに水銀を飲んでもらおう」という患者の声からハムラビ法典の「同態復讐法」に言及するが、この本義は「損傷を受けた共同体秩序の回復への希求」であって、単なる復讐ではない。苦界浄土は原郷としての共同体の死と再生の物語なのだ。
�∪侈粁蘰算辧嵒埣硫个�とめ」・・・人の世になじまぬもどかしさを出発点として
これは二十歳の時に書いた小説を中心にした詩文集であるが、この小説には、のちに結婚して、「結婚チ何ですか」と問い続けて夫を閉口させた性格の持ち主である彼女の私小説である。
私（渡辺）はかって、苦界浄土は私小説だと書いて物議をかもしたことがある。彼女が生まれつき持つ人間世界への違和感なしに、水俣病患者の苦しみの核心に到達できなかったと、私は言いたかった。
☆海風：
なんで読んだか忘れたが、「苦界浄土」は渡辺の編集していた雑誌か同人誌かに連載されたのであるが、ある時、渡辺は「君はあまり調査をしないね」と問いかけたという。石牟礼は、ばれたかという顔をして、何度も自宅を訪ねるわけにはいかないから、と答えたというのである。私（海風）は唖然としてしまった。しかし、それで渡辺が彼女をインチキだとか批判しているわけではない。
それにしても、迫真のドキュメントと見えた患者の言葉（一部だろうけれども）は、石牟礼が乗り移ったようにして吐き出した言葉だったらしいのである。
ログインしてコメントを確認・投稿する