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2017年01月29日19:54

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映画「この世界の片隅に」を見る

映画「この世界の片隅に」が口コミで多くの観客を集めているらしい。
それどころか、各種映画賞においても受賞が続いている。

こうの史代による原作の良さについては、十分に知っている。
肯定的であれ否定的であれ、ともすれば「政治」が語られてしまいがちな「戦時」を、
広島から呉に嫁いだすずを主人公に、庶民の日常に焦点を当てることで、
現代の読者にも手触りが感じられる具体的なエピソートで「時節」を表現していた。

むろん、その間、数度にわたる軍港・呉への空襲があり、広島には原爆が落とされる。
しかし、どんなに窮乏していても、どんなにつらい出来事が続いていても、
今日の一日を暮らしていかねばならないし、明日という日もやってくる。
少々のんびりしているが明るいすずの視点で当時の当たり前の生活が描かれることで、
結果的に、その理不尽さに気づかされ、腑に落ちるような物語となっていた。

そんな原作が映画化された。
監督の片淵須直は、「アリーて姫」や「マイマイ新子と千年の魔法」で知られているが、
こうの史代がキャラクターを描いている「花が咲く」のアニメーションを監督している。

映画化の構想から完成まで6年、
片淵は、まず原作に出てくる広島や呉の街をたんねんに取材し、
当時、暮らしていた人たちの記憶をたよりに、街並みを丁寧に復元したという。

それは、すでに原作の時点で、どの場所なのかがわかる程度には、
広島出身のこうの史代による独自の取材によって描かれていたということでもあり、
そうした取材に裏打ちされた原作だからこそ、
とてつもない手間と時間をかけねばならなかったということでもある。

そんなこともあって、原作を知るものとしては、エピソードの取捨選択はあるものの、
原作の味わいを損なうことなく、きちんと作ってくれた映画であるように感じられた。
反面、映画が賞賛されればされるほど、それは原作の良さなのに、
というイラダチもあった。

しかし、原作そのままと感じさせてくれるような映画に仕上げることこそが、
監督・片淵須直が最も努力したであろうところであり、
それを違和感を感じさせることなくやり遂げたことが、監督の一番の功績なのだろう。

ちなみに、映画化に際し、
パイロットフィルムの制作費用がクラウドファンディングで募られ、
目標の2000万円を数日で突破すると、最終的に4000万円近くにまで達したという。
「この世界の片隅で」を映画化してくれるなら、片淵須直が監督するなら、
という人々の思いが短期間でのクラウドファンディングを成功させたに違いない。

映画のエンドクレジットでは、最後の最後のところで、
3000人を超えたというクラウドファンディングによる出資者の名前が並んだ。
その圧倒的な量に、この映画がたくさんの人に支えられていたことを実感させられた。

だから、もし、まだこの映画を観ておられ方がいるならば、ぜひ見てほしい。
そんな発信をすることが、
出資しなかった自分が貢献できそうな数少ないことであると思うので。
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