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2015年07月04日21:56

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「大奥」第12巻を読む

前巻の終りに、将軍・家斉は自ら密かに城下の黒木宅を訪れた。

将軍が江戸城を離れること自体、通常ありえないことであるし、
ゆるぎない欲望と毒物でもって江戸城を支配する母・治済に隠し事をするのも危険だ。
家斉は、それほどまでに自分の命を救った「人痘」を広めることに本気なのだ。

次の手は、「天文方翻訳局」の新設である。
これなら、黒木を正式に召し抱えることができる上、さほど目につかない。
なるほど、うまい場所に設定したものだ。

史実においても、(この物語では絶対善である)吉宗は天文学に深い関心を寄せており、
吉宗による洋書の解禁の背景には、西洋天文学の導入があったとされる。
しかも、場所は江戸のはずれの浅草だ。
つまり、幕府内部で秘かに蘭学の拠点となりうる場所として、天文方はふさわしい。

さっそく、天文方の面々にあいさつする黒木だが、
学者は数少ない「男の世界」としつつ、「翻訳局に頼む仕事はない」という渋川正陽に対し、
女性の高橋景保は、「正確な天体観測には、最新の西洋の天文学知識が必要」と歓迎する。

史実においても、1811年高橋景保の提唱により天文方内に「蛮書和解御用」が置かれている。
蛮書和解御用には、玄白・良沢の弟子の大槻玄沢らが出仕しているので、
「杉田玄白とも懇意の黒木」が「蛮書和解御用とよく似た場所」で、
翻訳官筆頭を務めるのに違和感はない。

そして、「大奥」という男女逆転の物語を生み出した根本的な原因である「赤面疱瘡」は、
田沼意次の庇護の下で青沼や源内らが大奥で開発した「人痘」を
黒木らがさらに実用化した「熊痘」により、一気に克服されることとなる。
その背後に、将軍・家斉の後ろ盾があったことは見逃せない。

その証拠であるかのように、
よしながふみは、家斉が黒木に「ありがとう」という場面をわざわざ置いている。
家斉もまた、青沼部屋の仲間たちと同様に、「ありがとう」の連鎖の中に身を置くものなのだ。
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