mixiユーザー(id:34218852)

2010年12月22日08:42

151 view

小説の中の謎(48)  灯を消せば

 子供のころ読んだ日本昔話に「馬方と山姥」という話がある。今探すと、有名らしくてどれにも載っているのだが、覚えているのと同じものがない。
 前半:馬方が塩サバを街へ売りに行く途中の峠道で山姥があらわれ、サバを一つづつ取られてゆき、とうとう馬まで食われて山奥の一軒家に逃げ込む。
 後半:とそこは、山姥の家であった。帰ってきた山姥は、独り言を言う。「餅を食おうか食わずに寝ようか」。腹の減った馬方は、小声で「もちもち…」と囁く。思案していた山姥は、「餅を食おう」と言って焼くのだが、馬方がそっと盗み食いする。「今夜はねずみがでるそうな。上で寝ようか、窯の中で寝ようか」と言うので、馬方は「かまかま」と囁く。思案していた山姥は「釜にしよう」と釜に入る。
 上から下りてきた馬方は、窯に重しをのせて、カチカチと火打ち石で火をつける。山姥は独り言を言う、「カチカチ鳥が鳴くそうな、夜も更けたな」・・・火がぼうぼうと燃えだすと、「ぼうぼう鳥が鳴いている、夜も深いな」・・・
 私が見つけられなかったのは、このサブリミナルのようなマインド・コントロールの入った話である。
 後半部分は、いささか認知症気味の一人暮らしの老人そのものではないか。独り言を言いながらの暮らしで、おれおれ詐欺の餌食となる。
 解説にも、前半の恐ろしい山姥と、後半のだまされる山姥は別人のようで、二つの話を合体させたのでないかとしていた。しかし、気が張っている昼間と、寝静まった夜とでは、その印象が違っても不思議はないと思う。
 岩手県は北上山地の歌人西塔幸子1900-1936は、「灯を消せば山の匂いのしるくして はろばろと来たるものかな」と歌う。北上山地の小学校に赴任してきた幸子は、荷ほどきをしてから、もう寝ようと電気を消すと、一人ぼっちで山の匂いに包まれていることに気づくのである。
 昔話の山姥は、もう社会的防衛本能をなくしていたのである。
0 2

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2010年12月>
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031