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2010年12月12日19:51

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小説の中の謎(40)  キリスト像の展開

 題名も作者名も忘れたが、私の唯一読んだオーストラリアの小説であった。野鳥の楽園になっている谷を訪れた青年が、この谷の由来を調べる物語である。移民してきた一家が果樹園を開き、三代にわたって経営していたのだが、付き合いが悪くほとんど知られていなかった。ただ、果物の出荷と食料や資材の買い出しの時に姿を現すだけだったのである。一家は、毒蛇にかまれたり、子供が早死にしたり、障害児だったりの不幸に見舞われ、ついに最後に一人残った老人が、神が我々を滅ぼすと、嘆いて死んでいった。
 これは、マタイ伝、マルコ伝に伝えられたイエス最後の言葉、神よどうして私をお見捨てになるのか、を思い出させる言葉である。そして、野鳥のものではあるが、楽園が残されたのであった。
 もう一つは、深沢七郎「楢山節考」である。主人公のおばあさんは、村に伝わる慣習をすべて受け入れ生き抜き、最後に、楢山参りを楽しみとして、しぶる息子の背で死に場所に連れて行ってもらうのである。作者はキリストを描いたと述べていたが、その通りに、村の罪を背負って死んで行くのであった。
 おばあさんは何も言わなかったが、言ったとすれば、ルカ伝、ヨハネ伝の伝えるような、事はなされた、という内容であったろう。
 ただ、後に残されたのは、おばあさんの綿入れであり、これを孫息子がちゃっかりもらって喜んでいるだけであった。
 深沢七郎はペシミストであったのだろう。
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