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2010年12月12日08:40

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小説の中の謎(38)  父帰る

 バーネット「秘密の花園」は、児童文学の古典にとどまらず、心理療法の古典でもあるだろう。箱庭療法などは、この話をもとにしているに違いない。
 イギリスの親せきに引き取られた、ひねくれものの少女が、荒れ果てた庭園を元の美しい花園に復活させたいという夢を、同じく、甘やかされて、しかもいじけてしまった主人の息子とともに、ナチュリストの女中の息子に助けられて実現させる物語である。
 この花園は、屋敷の主人の愛妻が好きだった場所なのであるが、彼はここで妻が事故死してしまったため、それを忘れようとして花園を閉ざし、打ち捨てて、二人の間の息子も嫌って、ほとんど外国で暮らしているのである。そして、子供たちが復活させた花園で、妻が呼んでいる夢を見て帰国し、息子たちと感激の再会をして許しあうのである。
 つまりこの捨てられた花園は、この失意のあまりすさんだ主人の心を象徴しているのである。主人にとってこの庭は、エデンの園のようなものであった。ところが妻の死で、創世記とは違って、自分でエデンに呪いをかけて、その東に自らを追放していたのである。
 かたくなな老人の心を、無邪気な子供が癒すという物語なら、同じバーネットの「小公子」もそうだし、シュピリの「ハイジ」でもしぶしぶ引き取ったアルムじいさんの心をとかしている。赤毛のアンも、がちがちのプロテスタントであるマリラを自然な心に戻していく。
 「秘密の花園」の、特異なところは、かたくなな老人との直接の物語ではなく、その心が庭園に象徴されていて、そこのガーデニングの過程であらわされていることである。確かに、直接会えば、互いに嫌いあい、ますます泥沼にはまっていくはずだ。ほとんどの人間は、小公子やハイジではないのだから。
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