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2010年12月08日19:03

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小説の中の謎(35)  本音でしゃべり続ける

 サリンジャー「ライ麦畑でつかまえて」は、おかしな題だと思って長く読まなかったが、とうとう手に取った。これは、かなり甘ったれで、したいことしかしない少年が、本音で喋りまくる饒舌小説であった。家出するために、寮を出た少年がどうなるのか、まさに、道に迷ってばかりの青春時代そのもので、どうなるのか気になって、最後まで読み進めた。
 少年は、妹に家出のことを伝えたくて、深夜に妹の寝室に忍び込む。ところが、妹が、それなら自分も一緒に家出すると準備を始めたために、家出を諦め精神科に入院したところで物語は終わる。妹の方がしっかりしているのである。
 そこで、他のサリンジャーを読もうとしたが、こちらは読めなかった。状況に共感できなければ、その饒舌を聴いていられないのだ。マシュウがアンの話にうっとりしていられるのは、アンへの共感があるからであった。マリラにはそれがないからアンを叱ることになる。
 饒舌小説と言えば、セリーヌ「夜の果ての旅」1932、があった。今となっては聞き苦しい本音を延々と続ける小説であるが、巻頭に、「ひとの世は 冬の旅、夜の旅 一筋の光もささぬ空のもと われら道を求めゆく」スイス衛兵の歌1793年、が掲げられていて、これにしびれたのである。この歌を基調として悲劇に終わる物語であった。自業自得なのであるが。
 ここまではよかったが、ミラー「南回帰線」、「ネクサス」など、勝手にしゃべってろという感じになってしまった。本人は本音をしゃべって気持がいいだろうが、聞く方は共感がなければ聴いていられないのだ。
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