「猫本」というアンソロジーが2冊、2006年と2008年に出ている。
「猫の話であること」以外は何でもいいというゆるいルールで編集された、
なんとも猫らしいアンソロジーだった(らしい)。
この2冊のどちらもに描きおろし作品を寄せた萩尾望都と諸星大二郎のマンガ4作と、
萩尾・諸星の猫好き対談を核としながら、
萩尾望都と西原理恵子の対談、吉田戦車、ヤマザキマリのインタビューに、
西原、吉田、ヤマザキの描きおろし猫マンガなどをまとめて一冊にしている。
インタビュー・対談は、皆それなりの「猫飼いあるある」な話なのだが、
「仕事場に入ってくる猫をどうするか」という漫画家ならではの話も登場する。
飼っている側の対処の仕方もさまざまだが、猫の個性によってもずいぶん違うらしい。
萩尾・西原対談では、「炭鉱町に生まれた萩尾」が空想世界に行こうとしたのに対し、
「漁師町に生まれた西原」が現実をそのままに描いているということで、
まったく作品傾向が異なっているのに互いに非常に近い存在として分かりあう、
という奇跡の瞬間もあった。
写真も満載で、猫よりも背景に写った書棚や小物類の方が興味深かったり、
萩尾さんが着物にエプロンという姿で平気で猫を抱いているのを見てハラハラしたり。
マンガパートはというと、
西原、吉田、ヤマザキが対談やインタビューを受けたエッセイ・マンガだったのに対し、
再録組の萩尾・諸星作品は、擬人化した猫が登場するハチャハチャ短編で、
それぞれ毛色は違うのだが、つまるところ「猫だからしょうがない」「猫には勝てない」
というところに落ち着く作品ばかりだったのが、なんとも猫らしい。
しかも、萩尾の「長靴をはいたシマ猫」がなかなかの問題作で、
主婦が一人でいる家を訪れた電気工事技師が「擬人化した猫」である一点を除けば、
どうヒイキ目に見ても、ポルノでしかなかった。
しかも、16ページが4ページずつの起承転結でしっかり構成されているうえに、
持ち前の緻密な描写力をいかんなく発揮して、主婦の足先の描写などが妙にエロい。
萩尾先生、いかに気楽な猫マンガとはいえ、いったい何をやっちゃってるんですか、
というような作品だった。
そんな漫画家としての萩尾望都の懐の深さに思わずひれ伏してしまったことを含めて、
自由できままで奔放だけど、妙に気になって、かかわると楽しいというあたりは、
やはり、すこぶる猫らしいアンソロジーというべきなのだろう。
ログインしてコメントを確認・投稿する