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2023年05月19日16:38

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浮世の謎(79) 村上春樹のパターン 

 私が読んだ中で一番わかりやすかったのは、「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」だった。大学時代の仲の良かった仲間から、何故か外されてしまった青年が、人の集まる駅を作る技師となり、結婚した後、妻からその理由を探したらどうかと助言される。
 もっとも、この題名も象徴詩のようなのだが、色彩がないという特徴のない特徴が問題だったのだろうと思われる。また、「巡礼の年」からは、ゲーテ「ウイルヘルム・マイスターの修行時代・遍歴時代」が物語の骨格になっていることが分かる。

 で、難解な「カフカ」と「ねじまき鳥クロニクル」から村上春樹の特徴を整理したい。
 1.「海辺のカフカ」は二人の主人公がいて、二人はそれぞれ高松に行った。
 カフカ少年は父の家庭内暴力から逃れ、カーネル・サンダースに会って、安住の地を見つけた。
 ナカタさんは少年の時に原爆の閃光を浴びたが、高松で、旧日本兵が出没する穴をふさいだ。そして、大量に脱糞したあと力尽きて死ぬ。

 カフカ「城」では、仕事があるからと呼び出されて、城の街に行った測量技師だが、城からの連絡もなく、城へ行っても担当が違うと言われて困る話だった。創造神に呼び出されて生を受けたはずが神からの指示がない人間の不条理が描かれている。
 多神教の日本神話の場合は、神も葦の芽から生まれたわけで、人間に何か指示する立場ではなかった。で、カフカ少年もナカタさんも自分の使命は自分で決めることになる。
 ナカタさんの場合は太平洋戦争の後始末で、カフカ少年は戦争の腐れ縁を引きづらずに生きることだったようだ。

 2.「ねじまき鳥クロニクル.」は、妻が失踪して行方不明になり、残された夫が妻の行く方を探す。
 井戸の底へ降りて精神を統一する(集合的無意識を探るため)。
 妻の兄は戦時中満州にいて、ソ連軍に急襲された壊滅的打撃を受けたとされるノモンハン事件に遭遇していた。
 戦前の日本軍の侵略が妻の精神を狂わせていたのである。
 (ノモンハン事件では日本軍が一方的敗北だったとされているが、ソ連崩壊後に機密文書を調べたところ、ソ連軍の犠牲も大きかったことが分かったとされている。今でもそうだが、ソ連・ロシアは秘密主義の独裁政権なので)

ということで、村上春樹の小説では、物語の事件の発端は太平洋戦争と日本軍と言うことになっている。対して、アメリカ文化は、カフカ少年を導くカーネル・サンダースで代表させてある。
 かなり不公平な歴史認識と言わねばならないが、それを言えばアメリカでは「歴史修正主義者」として社会的地位を失うかもしれないのである。

 3.「1Q84」でも、このパターンは生きているか?
 これは、オーウェル「1984」の本歌取り小説である。
 主人公は二人で、
 青豆(青豆雅美)は体育大学を卒業したスポース・ウーマンだが、生家は熱心なカルト信者だった。

 もう一人の天吾の場合は、彼の父が戦前に満蒙開拓団に志願していた。だから、彼がいつ生まれたのか忘れたが、彼の家族は満州の奥地からの引揚者である。
 満蒙開拓団の訓練施設は茨城県内原(水戸市の少し南)にあって、無料で訓練してくれるし、少年には学歴も付けてくれる。だから、学校へ行けない少年は内原を目指したとのこと。
 ということで、天吾の方は満州侵略に関係した一族だった。
 「1Q84」の場合は、オーム真理教を下敷きにしているとのことで複雑なストーリー展開になるが、女性の青豆の方がカルトを、男性の天吾が侵略責任を負う立場である。

 ということで、村上春樹の小説は、太平洋戦争の責任は日本にあるとする反戦小説のパターンになっている。いろいろな象徴的イメージをクリスマスツリーのように散りばめるハイカラなスタイルの小説なのだが、骨格は日本の責任を追及する政治小説である。

 「色彩を持たない多崎つくる」は政治小説・反戦小説ではなく、むしろ主人公の成長を描くゲーテ風の、あるいは漱石「三四郎」のような教養小説。また、最初の頃の「羊」を探すタイプもあるので、政治小説(戦争のトラウマ小説)は一時期のものかもしれない。


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