１枚目 ピサロ「オペラ座通り」 イメージ・アーカイブのブログ
２枚目 クリムト「マルガレーテ・ウトゲンシュタインの肖像」 ファイン・アーツのブログ
３枚目 シャガール「誕生日」 アートペディアのブログ
著者は1957年生、大阪大学文学部卒。アムステルダム大学留学を経て大阪大学教授。業績に、ゴッホに関する著書が３冊とシャガールに関するもの１冊がある。
第１章 ユダヤ人芸術家の誕生
教養（bildung）という理想（民族を越えた個人主義で国際主義でもある）
ドイツに住んでいたゴットホルト・エフライム・レッシング（1729-81）はユダヤ人を主人公にした「賢者ナータン」によって、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教のいずれが優れているかとの問いは必要ない。それぞれが、それぞれの信仰が優れていると信じるなら、三つの宗教はそれぞれ本物なのだ 。互いに差別する根拠はないとした。
レッシングの啓蒙思想は大きな影響を与え、彼の友人でユダヤ人の哲学者モーゼス・メンデルスゾーンは、ユダヤ人の政治的、法的解放を主張し、ユダヤ人に対しては、啓蒙主義に基づいて西欧化、世俗化運動（つまりユダヤ教には意味不明の規制・規則がたくさんあって生活を縛っているので）を展開した。
メンデルスゾーン家はドイツの名家で、作曲家のフェリックス・メンゼルスゾーンも一族である。レッシングはゲーテ（1749-1832）にも影響を与えていて、ゲーテは教養小説（bildungsroman）を代表する「ウィルヘルム・マイスター」を書いている。
キリスト教と同じく、ユダヤ教も利子を付ける金貸しを禁じているのだが、誰もしない金融業者になる者もいた。やがて資本主義社会になると金融業のプロが財力を蓄え、ロスチャイルド家のように多国籍企業を創設するようになったわけである。
経済史家のヴェルナー・ゾンバルトはスペインやポルトガルのようにユダヤ人を追放した国は衰退し、逆に受け入れたオランダのアムステルダム、ベルギーのアントウェルペン、ドイツのハンブルク、フランクフルト、フランスのボルドーなどは繁栄したとのこと。
教養主義の理想を追求した教育機関がドイツのギムナジウムだった。教育熱心なユダヤ人は自分の子供たちをギムナジウムに入学させたわけで、世俗化し西欧化した青年たちを輩出した。
ということで、モーゼの十戒によって「いかなる像も作ってはならない」とされたにもかかわらず、歴史に残る画家も輩出した。
第２章 パリ 異邦人たちと芸術の都
カミーユ・ピサロ（1830-1903）改宗ユダヤ人で、視覚世界の普遍性を求めた代表作が「オペラ座通り」1898
アメデオ・モディリアーニ（1884-1920） イタリア・リヴォルノ
ジュール・パスキン（1885-1930） ブルガリア・ヴィンディン
マルク・シャガール（モイシュ・セガル）1887-1987 ロシア（現ベラルーシ）・ヴィステンブルクで墓地はニース
モイーズ・キスリング（1891-1953） ポーランド・クラクフ
ハイム・スーティン（1893-1943） ロシア（現ベラルーシ）・スミロヴィッチ
画商
ジャポニスムとアール・ヌーヴォーの仕掛け人
ハンブルク出身のユダヤ人ジークフリート（パリでサミュエルと改名）・ビング（1838-1905） 彼の店でゴッホが浮世絵を初めて見たとのこと。1878年のパリ万博で浮世絵を紹介した。
コレクター ガートルード・スタイン（1874-1946） 作家で兄とともにゴーギャンなどのコレクター。ピカソによる彼女の肖像画があるとのこと。
第３章 ウィーン ユダヤ系パトロンたちの「陽気な黙示録」
作家は多いが画家は少なかったが、クリムトやシーレなどの分離派が有名。。
アルトゥール・シュニッツラー（1862-1931） 「恋愛三昧」1895
フーゴー・ホフマンスタール
シュテファン・ツヴァイク（1881-1942） 伝記作家
ヘルマン・ブロッホ
★海風注：「恋愛三昧」は純真な少女と浮気男の物語。人妻との情事で夫との決闘の末に殺される。鴎外「舞姫」は、この影響でないかと思われる。
分離派
グスタフ・クリムト（1862-1918） 父はボヘミア（チェコの西部）出身のユダヤ人。
エゴン・シーレ（1890-1918） シーレ家はドイツ出身のユダヤ人
ウイーンのモダン・アートを擁護したパトロンたち
カール・ウィトゲンシュタイン（1847-1913） ドイツの実業家一族で、オーストリアの製鉄業を起こして、オーストリア近代産業の父とされる。
息子のルードウィッヒは哲学者として有名。
ウイーン分離派が成功できたのはカールとピューリッツアー家出身のゼレーナ・レーデラーなどがパトロンとなり援助や応援をしたからである。
ゼレーナの夫も実業家であるが、実家の叔父はアメリカでピューリッツアー賞を創設した。
クリムトが死んだとき、ゼレーナはクリムトの画の全部を買い取った。しかし、ヒトラーのウイーン侵攻でコレクションのすべてが屋敷ごと焼失し、今残っているのは母と娘の肖像画だけとのこと。
クリムトは、注文があったからだろうが、カールの娘マルガレーテとゼレーナの肖像画をそれぞれ描いている。
更に、エゴン・シーレはゼレーナの娘エリザベート・レーデラーの肖像画を描いている。
★海風：まとめ
１．背景について
�．Εぁ璽鵑�音楽の都となってモーツワルトやベートーベン、シューベルトなどを輩出したのは、皇帝のハプスブルグ家が代々音楽好きで、パトロンになったから、各地から才能ある者が集まったからだとの説がある。
同様に、教養を目指し、戒律を破って画家を目指したユダヤ人たちも、裕福なユダヤ人パトロンが応援したからに違いない。
無論、一方では戒律を守るユダヤ人もいるわけで、あるユダヤ人の画家が少年のころ、ユダヤ人の老人にモデルになってくれと頼んで、殴られたエピソードを紹介していた。
�△修譴砲靴討癲▲罐瀬篆佑噺世辰討眦豌そ仗伴圓�多い。ウィキによれば、東欧のユダヤ人をアシュケナージと呼んで、もう一方のスペイン・ポルトガル、イタリア、トルコ、北アフリカに定住した者をセファルディムと言うとのこと。
一方、ローマ帝国に敗れて民族離散となった後も、ユダヤ人の多くはオリエントに残ったとのことである。となれば、ヨーロッパのユダヤ人は誰なのかという疑問がわいてくる。
➂ということで私などは、黒海の北にあった遊牧民族ハザール人の王国を思い出すのである。７世紀からモンゴルの侵攻で滅ぶ12世紀まで存在し、９世紀にユダヤ教に改宗した。というか、それまでは民族に固有の原始信仰だったのだろう。
ロシア公国と一緒にキプチャック汗国の支配下に入って、ロシアの方はタタールのくびきの称して怨んでいたらしいが、ハザール人の方はどうしていたのか分からない。
�ぅ◆璽機次Ε吋好肇蕁次�1905-1983） ハンガリー系ユダヤ人で、自身をハザール人だと主張した。
「ユダヤ人とは誰か―第十三支族・カザール王国の謎」1976年（宇野正美訳は1990年） で、アシュケナジムはハザール人で、イスラエルに対して何の権利もないと主張した。
（一説によれば、1500万ユダヤ人の9割を占める東欧系ユダヤ人は、聖書の民、セム系・ユダヤ人ではなかった。「ホロン革命」のケストラーが自らのルーツを探り、世界のタブー=ユダヤ人問題に挑戦した。・・・ということは欧米の全ユダヤ人がハザール系だとなる？）
ケストラーは「真昼の暗黒」1940年 ではスターリンの粛清裁判を批判したことで有名だった。ジョージ・オーウェル「1984」に影響を与えたとのこと。
「ユダヤ人とは誰か」は読んでいないが、出版された時は評判になっていたのを覚えている。
ただし、ケストラーの説は世界政治の大問題になるのでいまだ封印されているはず。
�ジ機后▲罐瀬篆佑魯罐瀬箒掬未里海箸如⊃夕錣妨堕蠅気譴討い覆い呂困覆里如▲魯供璽訖佑�イスラエルを故郷だと信じていても不思議はない。キリスト教徒もエルサレムに特別の思いがあるだろうし。
ハザール人も亡国の民となったわけで、しかもユダヤ人として差別の対象になったわけである。
アインシュタインもアシュケナージ系ユダヤ人とのことだから、ハザール人だったのだろう。ウクライナ出身のショーレム・アレイヘム「屋根の上のバイオリン弾き（原題は牛乳屋のテビエ）」1894年もハザール系だったに違いないのである。
「不思議の国のトムキンス」で相対性理論を解説したジョージ・ガモフもユダヤ人で、アメリカに亡命した時に差別を感じたと書いていた。むろん、アインシュタイン級ともなれば差別など問題にならなかったに違いないが。
そもそも、旧約聖書のユダヤ人の多くは追放された後も、イスラエル周辺を離れなかったらしいので、世界にユダヤ支族が散って行ったと言うのは、それこそユダヤ伝説だろう。
２．ユダヤ人は教養の普遍性や国際性を求めて東西に進んだ。
�‥譴脇�本文化
1867年のパリ万博に出品された浮世絵がモネなどの若い画家に影響を与えて、印象派が始まった。また、1870年代に、ドイツ系ユダヤ人のサミュエル・ビングがパリで浮世絵を売り出したことで、広く知られるようになったとのこと。
またビングは店の名前をアール・ヌーボー（新しい芸術、ヌーボー式）としたことで、工芸分野にも日本美術を導入した。
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ユダヤ財閥の代表はロスチャイルドのようだが、フランクフルト出身のマイヤー・ロートシルトが1760年代（日本で言えば徳川中期）に、ロンドンに本店、パリ、フランクフルト、ウイーン、ナポリに支店を置いた銀行業を創設したことに始まった。
アシュケナージ系ユダヤ人はドイツ以東の東欧に多いのだが、銀行業は、商業や金融業の発達した西ヨーロッパだったからこその発展だったと思える。
３．イスラムとの違い
イスラム教徒だったオスマン・トルコ帝国は寛容だったとのことでユダヤ人差別はなかったらしい。
しかし、イスラム教国で政教を分離して世俗化を許したのはナセルの軍事革命によるエジプト、ケマルパシャの軍事革命によるトルコだけ。イスラムを讃える学者が言うのは、その神秘主義思想（要するにイスラムの宗教哲学）であって、ユダヤ人の開明的な教養主義と正反対だと言わねばならない。
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