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2021年11月03日08:29

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日本の心22〜言霊の幸はふ国

 古代の日本人は、アニミズムとシャーマニズムに基づく信仰を持っていました。アニミズムとは、自然界のあらゆる事物には霊魂や精霊が宿り、諸現象はその意思や働きによるものとみなす信仰です。シャーマニズムは、祖霊や精霊と接触・交流する能力を持つ職能者を中心とする信仰であり、制度化され、体系化されたアニミズムであると考えられます。一言で言えば、職業的霊能者を中心とした精霊信仰です。祈りを捧げる者がシャーマンであり、捧げる対象が精霊(アニマ)です。
 日本のアニミズム的・シャーマニズム的な世界観においては、言葉が重視されました。古代の日本人は、言葉には霊的な力が宿っていると信じていました。それが言霊(ことだま)の思想です。言霊とは、言葉に宿る不思議な霊威であり、その力が働いて言葉通りの事象がもたらされると信じられていたのです。言霊がその力を表わすのは、祈りによってです。祈るとは「斎(い)告(の)る」の意味であり、神の名を呼び、幸いを請い願うことです。祈りの言葉はそれ自体に霊力があると考え、祈ることによって、言葉に内在された霊力が働いて、祖霊や精霊に感応すると考えたのでしょう。
 言霊の思想は、『万葉集』に見ることが出来ます。山上憶良の「好去好来歌」に次のようにあります。
 
 神代よりいひ伝(つ)てけらく 空見つ大和の国は すめらぎのいつくしき国 言霊の幸はふ国と 語りつぎいひつがひつつ 今の世の人もことごと 目の前に 見たり、知りたり(以下略)
 
 この歌の大意は、「神代の昔から言い伝えて来たことだが、日本の国は、天皇の祖先神の神威がゆるぎない国であり、言霊の霊妙な働きによって幸いをもたらす国だと語り継ぎ、言い伝えてきた。このことは、現代の人も、みな実際に見てもいるし、知ってもいる」となります。ここで、憶良は、日本は「すめらぎのいつくしき国」であるとともに、「言霊の幸はふ国」だとしています。「すめらぎ」と「ことだま」の関係は、天皇(すめらぎ、すめらみこと)は宗教学的にはシャーマンに当たり、言霊を振るって神々に祈る最高位の神主と考えられます。
 「言霊の幸はふ国」だという認識は、『万葉集』に広く見られます。皇族の代作歌人・柿本人麻呂の歌にも次のようにあります。

 磯城島(しきしま)の 大倭(やまと)の国は 言霊の助くる国ぞ まさきくあれ
 (大意: この日本という国は、言霊が助けてくれる国である。幸多かれ)

 この歌は、祝福の言葉を唱えるならば、必ずその言霊の働きによって幸いが実現するという信仰に基づいているのでしょう。 
 わが国の文化を最も良く表わすものの一つが和歌ですが、和歌の根底には言霊の思想があります。『古今集』の序にもそれが表れています。その冒頭部は、次のように記されています。
 「大和歌は、人の心を種として、万の言の葉となれりける。世の中にある人、ことわざ繁きものなれば、心に思ふことを、見る物、聞く物につけて、言ひ出だせるなり。花に鳴く鴬、水に住む河鹿の声を聞けば、生きとし生ける物、いづれか歌を詠まざりける。力をも入れずして、天地を動かし、目に見えぬ鬼神をも、あはれと思はせ、男女の仲をもやはらげ、猛きもののふの心をも、慰むるは歌なり」
 最後の部分の大意は、「全く力を入れることなく、天地を動かし、目に見えない鬼神をも感動させ、男女の関係を和らげ、勇ましい武人の心をも慰めるのは和歌である」となります。この「力をも入れずして、天地を動かし」いう一句には、言霊の思想がよく表れています。
 言霊の思想は、古代で消滅したわけではありません。現代でも、願いは必ず実現する、信念は必ず実現すると信じている人が少なくありません。そう信じて実行したという成功体験は多数あります。祈りの効果は、欧米における数々の実験によって、科学的に認められています。言葉の力を信じ、祈りに思いを込めるという点では、現代の私たちにも言霊の思想に通じるものがあるといえるでしょう。

 次回に続く。

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