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2011年03月10日05:28

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小説の中の謎(74)  事実からファンタジーへ

 E.L.カニグズバーグ「なぞの娘キャロライン」1976 岩波少年文庫1990 は、ヘレン・ケラーを思わせる少女の障害児問題とハースト家を思わせる金目当ての大富豪の子弟の誘拐という社会問題をからませた物語である。事実は重い、したがって記録文学は重いのであるが、カニスバーグはいくつものifを挟むことによりファンタジーへと転化させたのである。
 障害児であることで甘やかされ、同時に恥として隠されていた10歳の少女とその世話をさせられている兄のいる大富豪一家に、17年前に誘拐されて生死不明になっていた先妻の娘キャロライン30歳が戻ってくる。これには先妻が両親から受け継ぎキャロラインに相続される財産問題がからんでいたのであり、両親、特に後妻はキャロラインをいろいろな形で試験する。本物のキャロラインしか知り得ない事実をそれとなく持ち出して反応を見るのであるが、キャロラインはことごとく正しく反応するのであった。そして、最後に、キャロラインの歓迎パーティの席で、かっての校長先生や友人に合わせるが、ここでもすべて本人しかありえない行動を見せる。
 この、実は偽のキャロラインの実像が見えてくるのは、障害児の妹に正しい治療をさせたいために、校長先生のもとを訪ねることから始まった。本物は学校の成績がよくなかった。しかし、偽物は優等生であって、その点だけはごまかせなかったのである。この偽物が校長の協力を得てヘレン・ケラーにおけるサリヴァン先生20歳になったわけである。
 なぜ、ここまで見事に化けおおせたのか。これには先妻の母の意向があった。ボケ始めていて後妻とあわず老人ホームにはいり、死を待っていた老女は、孫娘とそっくりの看護婦をみて、彼女を孫娘キャロラインと思っているふりをした。その看護婦も老人に合わせるために、孫娘のすべてを受け継いでいったのであった。そして、死を前にして、「やってしまえ」と、彼女の背を押したのである。
 ここに、現代の先進国の抱える社会問題が、ファンタジーとなって凝縮されている。これこそ神話作用ではなかろうか。
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