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2011年03月05日05:22

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小説の中の謎(73)  ごっこからファンタジーへの展開

 マルセル・エーメ「おにごっこ物語」1939 岩波少年文庫1956 は、農場に住む二人の小学生姉妹のごっこ遊びの数々である。第1話「オオカミ」では、近所に同年輩の友達がいない二人は、これでは何の遊びもできないとぐちをこぼしているところへオオカミがやってくる。となると、「赤ずきん」であるが、やはり、楽しくごっこ遊びをしていると、オオカミは本性を現わして・・・。農場だから、ごっこ遊びはすべて動物たちであり、食べるー食べられるシリアスな関係も表に出てくるのである。
 第2話「ウシ」は秀逸である。優等賞をもらった姉妹は農耕用の2頭のウシにも勉強を教えようとする。そのうちの1頭が勉強にのめりこみ、自分のような才能の持ち主がなぜ、畑で働かなければならないのか、もっと勉強時間が欲しいと悩み、役に立たなくなり、主人、つまり姉妹の父は、困り果てる。結局、もう1頭が遊びを習い、2頭でサーカスに売られることでめでたしめでたしとなる。すべてに言えることだが、ストーリーよりも場面が面白い。1頭がむつかしい顔をして本を読み、もう1頭がふざけて遊んでいる挿し絵があるが、これなど傑作である。
 第5話「ゾウ」は、降りやまない雨にあきあきした姉妹は、両親の留守中にノアの箱舟ごっこはじめる。農場の動物の一つがいずつを、居間に入れて、世界が水の中に沈むが、ここに居るものだけが助かると恩に着せて、箱舟の船長とかじ取りになる。かじとはストーブの空気入れで回すたびに煙が出て、その迫真的な効果に、動物たちはだんだんおびえはじめる。もう1羽のメンドリも、自分も助かりたいと訴えるので、これをゾウに見立てることにするが、ゾウも姉妹もすっかりその気になってしまい、箱舟が陸地について他の動物たちが庭に解放されても、なおゾウのまま。この大きさでは居間から出られない。両親が帰ったらどうしょうと、今度は姉妹の方が怖くなってくる。これも挿し絵がおもしろい。
 ごっこ遊びという古典的?な遊びが、ファンタジーの世界に飛躍する。そのつなぎ目の部分が見えるようであり、興味深い。なお、第2話「ウシ」は、「シャーロットの贈り物」で、蜘蛛のシャーロットが農場の食肉用にかわれている子豚に芸を教えて、食べられる運命から解放してやる物語に直結しているようである。たぶん、この話からヒントを得たのであろう。「シャーロット」の方は、蜘蛛のシャーロットが死んで、その翌春、子供たちが風にのって旅立ってゆき、それを子豚が見送る場面で終わっている。
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