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2011年03月03日05:32

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小説の中の謎(72)  去ってゆくざしきわらし

 メアリー・ノートン「床下の小人たち」1952 は、大きな屋敷の床下で借り暮らしをしている、両親と娘アリエッティの3人の一家の物語である。原題は、the borrowersで、衣食住に必要なものはすべて人間から借りて暮らす人たちの意味。この屋敷には、今、借り暮らしはこの一家だけだが、かってはたくさんいた。ハープシコードのそばの穴を玄関とする一家、マントルピース(暖炉)の上を玄関とするオーバーマントル一家、レイン=パイプ家(雨どいか?)、アリエッティは大時計の下の穴を玄関とするクロック家である。
 他の小人たちは、屋敷の人たちに見つけられ、猫を飼われたりして危険になったので屋敷を出てゆき、今はアリエッティの一家だけになった。ただ、近くの野原のアナグマの巣の後に、同じく出ていった伯父一家が住んでいる。
 アリエッティは13歳になっていたが、一度も薄暗い床下から出たことはない。危険が多いとして父が出られないようにしていたのであるが、積極的な性格の彼女は、とうとう、外の世界への憧れを両親にぶちまける。 
 父も屋敷に一時逗留している男の子に見つけられたのだが、娘の願いで、一緒に室内にあがってものを借りていく(盗んでいく)ことにしたが、その時娘もみつかって、その9歳の男の子とともだちになる。
 小人たちは、家にあるものを自分たち用に転用する。安全ピンがドアの戸締りに、インクの吸い取り紙(今はないか?)が床の敷物、煙草の箱がアリエッティのベッドの天井、チェスの駒がが室内装飾などなどになる。かなり器用なdo-it-yourselfでないとやってゆけない。
 初めて外に出たアリエッティは、陽の光にきらきら光る緑がかったカナブン、せかせか歩くアリ、コケやスミレに這いまわるクローヴァの葉のジャングルにさくらそうをみて、遊んでくれそうな友達を探していて、男の子に見つかったのである。
 男の子は一家を助けるのであるが、それがあだとなり伯母たちに見つかり、ねずみのようにいぶしだされるところを男の子の機転で脱出して、ひとまず伯父の家にのがれたところで物語は終わる。
 薄暗い床下で、日記を友としている少女、となれば天井裏に隠れていたアンネ一家を思い出す。子供のころ家に「光ほのかに」と題された本があったが、これが「アンネの日記」であった。小さいときは写真を見るだけであったが、高学年になって読めたと思う。エリノア・ルーズベルト夫人の序文があり、なぜ、大統領夫人が、と思ったものだった。
 たぶん、ノートンは「アンネの日記」を読んでいたに違いない。異文化・異民族との共生をテーマとし、ドールハウスをモチーフとして、ゲルマン神話や白雪姫にでてくるこびとたちをモデルに、この物語が紡がれたのであろう。
 日本の遠野にも、ざしきわらしが出てゆくとその家は没落するという伝承があったが、イギリスでも同様らしい。
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