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2011年01月16日19:36

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小説の中の謎(58)  スイス貧乏物語

 スイスはアルピニズムや観光業、それに精密工業が盛んになるまでは、山だけで耕地のない貧乏国だった。最大の産業は勇猛果敢な傭兵隊であった。他に仕事がないので勇猛になるはずだ。
 しかし、最大の被害者は子供である。リザ・テツナー「黒い兄弟」は、金で買われたスイスの少年たちが、イタリアに連れて行かれ、煙突掃除夫になる、という社会問題を背景とした少年小説である。アニメにもなっているが、小説は1941年に刊行された。煙突は狭いので少年しか入れないから起きたことで、社会問題となったのは、1830年代とのことである。
 少年は煙突掃除、では、少女は?幸運な場合はハイジのように、ドイツのブルジョアのお嬢様の遊び相手に雇われることだろう。ハイジの叔母が、良いことだと言って、アルムおじさんからハイジを奪って行ったのも理にかなっているのだった。
 ところで、「ハイジ」に盗作疑惑があるというのが去年の春ごろ新聞にのって驚かされた。今、ネットで調べても後続の記事がない。あれは立ち消えになったのか。人騒がせである。盗作説のもととなった小説は「アルプスの少女アデレード」1830年で、「ハイジ」より50年早かった。奇しくも、煙突掃除の少年たちが社会問題になったときである。要するに、ハイジのような少女はたくさんいたということだろうし、似た場面があっても不思議ではなかった。
 もっとも、50年後の「ハイジ」のときには、アルプスの評価が高まりつつあったときではあった。だから、クララの家の家政婦がスイスからの少女を求めたのであった。ただ、ハイジを送って実際にスイスに来た時には、ここから先は、知り合いの馬車に乗せてもらって一人で帰れるといわれて、ほっとして駅から引き返すのだったが。
 ハイジはドイツでよかった。少年たちのイタリアは、アミーチス「クオレ」によれば、家族のために観光客からお金をもらった少年が、その観光客たちが、ヨーロッパの乞食の国と軽蔑しているのを聞いて、もらった金を投げ返す場面があった。日本でいえば、明治維新の頃だろうか。イタリアも貧乏だった。そのイタリアより、スイスはさらに貧乏だったらしい。
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