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2023年08月29日07:57

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浮世の謎(155) 国民作家の出現

 日本の場合だと、戦後では司馬遼太郎(歴史的人物 信長や大村益次郎)、松本清張(推理、「日本の夜と霧」)
 明治大正だと夏目漱石(「坊ちゃん」、知識人たち休暇を描く「猫」、夫婦もの、大学に入るために地方から東京に上京する「三四郎」)や森鴎外(ドイツ留学生「舞姫」、江戸時代のうずもれた学者の伝記)、それに谷崎潤一郎「細雪」など。

 ここには、日本の企業文化の特徴とされる合意形成の努力、稟議書を作成して幹部たちに承認の押印をもらうなどの組織人はいない。
 作家が問題にしたのは、責任を取る個性的人間像なのであって、企業人ではなかった。
 数は少ないが、伊藤整「氾濫」は企業の研究者を中心に大学教授を絡めたものだった。遠藤周作にも街の開業医が笹からガンの治療薬を開発する小説がある。同級生に大学教授がいるのだが無視されている。(当時は突然変異説だった)
 大衆小説として池井戸潤の銀行員・半沢直樹ものがある。

 ただし、NHK「プロジェクトX」は戦後の復興から高度成長を先導した企業人の活動を描いていた。「地上の星」として歴史に名を残さない企業人を描いた。

 外国の小説では
 イギリス
 チャールズ・ディケンズ(1812-70)
 「オリヴァー・ツイスト」詐欺のルフイ一族のような泥棒の親方の下にいてもオリヴァーの純真さは変わらず、むしろ友を引き寄せ、女泥棒が命を懸けてオリヴァーを守った。
「リトル・ドリット」はディケンズの子供のころに一家でいれられた借金監獄から始まり、下巻では父が親族の遺産を受けて金持ちになるのだが、どちらの時にも娘のドリットは誠実に働いていた。
 環境に左右されない人間性を理想と見たわけで、バーネット「小公女」も同じタイプだった。

 アメリカ人の冒険精神を描いたのがマーク・トウェイン
 田舎町の偽善者で悪人の正体を暴く「トム・ソーヤーの冒険」、黒人奴隷の逃亡を助け自由州を目指してミシシッピを下り、ミズーリ川を遡るつもりが失敗して奴隷州の真っただ中を下る羽目になった「ハックルベリー・フィンの冒険」。

 マーク・トウェインの姪の娘ジーン・ウェブスター「あしながおじさん」は、ユーモアが孤児院のジルーシャ・アボットの運命を変える。
 英米人にはユーモア精神・余裕の心が重要だったし、マーク・トウェインも本来はユーモア作家だった。
 イギリスの指導者を育成した全寮制の男子校パブリック・スクールでは厳しい規律のもとでスポーツと勉強の毎日だったが、規則違反してもユーモアをもって説明出来たら許されたとのこと。池田潔「自由と規律 イギリスの学校生活」岩波新書1949(留学したのは1920年頃)
 (なお、「小公女」によれば女子の全寮制学校もあった。本来は中学からだが、親に邪魔にされて小学生の時に入れられた子もいた。)
 「ハリー・ポッター」の魔法学校ホグワーツも全寮制(共学だが)のパブリック・スクールになっている。空中クロッケーで規則違反をしたハリ―だったが、あまりにも妙技だったので許された。先生方は小さい違反はダメだが、大きな規格外は歓迎するのである。
ただし、サマーセット・モーム「人間に絆」は青年時代の半自伝小説であるが、パブリック・スクールの先生たちを退屈で無能扱いにしていた。

 アメリカ人とは、プロテスタント(とりわけ原理主義強硬派のクエイカ―教徒)が国教会のイギリスからはじかれて作った国なので元々宗教的なのだが、「赤毛のアン」によれば、カナダもクエイカー分派の長老派とメソジスト派(「赤毛のアン」では対立していたが、戦後には再統一した)移民なので宗教深かった。翻訳者の村岡花子は貧乏で学費は払えなかったが優秀な成績で特待生だった(朝ドラ「花子とアン」によれば)。
 「赤毛のアン」はむしろ日本の国民文学になってしまった。彼女の自然愛・故郷への愛(キャベンディッシュ(アボンリー)やプリンス・エドワード島賛歌)に満ちているからだと思う。

 一方で、聖書の現代版小説を書いた作家もいるのだが、これはやりすぎだろう。
 ジョン・スタインベック「怒りの葡萄」(モーゼによる出エジプト)
 昔々だが、朝日新聞がカリフォルニアで「怒りの葡萄」の取材をしたら、レストランの女店員は「何? それ? 知らん」と答えた。

 「エデンの東」映画版はエリア・カザン監督、ジェームズ・ディーン(カイン役)が主演。
 ウィリアム・フォークナー「アブサロム、アブサロム」(反逆の王子のアブサロムが討たれた知らせを受けた時の父王ダビデの嘆きの声)はダビデを南部の大地主に移したもの。

 ★国民小説とは、国民性の肯定を土台にしているからこそ愛されるのであって、マルクスを土台に日本人を批判する戦後派小説は失格であろう。

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