動物物語には古いものでは「イソップ寓話集」がある。人間を動物になぞらえて風刺したり、教訓にしたりする。それは近代の小説でも同じだと思う。
１．馬は賢いし社会生活になくてはならない（自動車が発明されるまでは）。だから虐待してはならない。黒人奴隷の場合は解放すべきである。
�．▲鵐福Ε轡絅Ε┘襦�1820-78）英国人「黒馬物語」
穏やかな性格で、乗り手の気持ちを気配で察する黒馬ブラック・ビューティーは大地主の牧場でも、貧しい馬車（今のタクシー）になった時も大事にされていた。しかし、牧場に一緒にいた雌馬はプライドが高く、気に入らない乗り手は降り落とすのである。それは、牧場から売られて荷車の馬になっても同じで、道の真ん中で動かなくなってしまい持ち主に打ち殺されてしまった。本書は動物愛護運動の先駆けともいうべきものである。
同じころに、ストー夫人「アンクル・トムの小屋」が出版され、奴隷解放運動をにいては南北戦争の北軍正義の根拠ともなっている。
マーガレット・ミッチェル「風と共に去りぬ」は異論があると思われるが。
��J・C・ハリス（1848-1908）米国人「ウサギどんキツネどん リーマス爺やのした話」
黒人奴隷のリーマス爺やが夕食が終わってくつろいでいると、地主の坊ちゃんハリス少年が小屋に訪ねてくる。（なお、ウサギどんの英語は、Brer（黒人訛りのBrother）Rabbit）
内容は南部黒人の伝承であるが、さらにアフリカにさかのぼるとのこと。
２．動物と人間の関係
�．掘璽肇麁以�記は（アーネスト・シートン（1860-1946）英国生まれで父がカナダに移住）は、動物の生態に基づいているが、あるべき人間像として描いている。
「ギザ耳ウサギ」は母兎による息子兎の教育物語である。生きるために厳しく、しかし愛情を注いで。ギザ耳になったのは母の言いつけに背いて外へ出たために蛇にかみつかれたから。気が付いた母兎の猛攻撃で耳がギザギザになっただけで助かった。
子兎の住む草地の持ち主がいい加減な管理しかしなくなったので、いろんなところに藪ができて、母兎の死んだあとでも子兎の一家は繁栄した。
「ウィニペグの狼」は飼い主だった少年が死んだために野生の一匹狼のようになってしまった。横断鉄道の汽車がウィニペグの近くにくると、夕闇の崖の上から遠吠えが聞こえてくる。少年の魂に呼び掛けるように。
�▲螢船磧璽鼻Ε▲瀬爛后�1926-2016）英国人「ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち」は、ウサギの丘が開発で破壊されることになった。それを察知したリーダー兎は他の兎を説得し、それでも残ると言う力自慢の兎を置いて、遠くに見えるダウン（丘のこと、辞書を引くまで窪地だと思っていた）を目指した。人間に見つからないように、他の兎のなわばりに気を付けて。
「疫病犬と呼ばれて」は、危険なウイルスの実験施設に飼われていた２頭の犬が、自分の運命を察知して檻を破って逃げ出した。疫病が人に感染すると死を待つばかりになる。人間による必死の追跡を受けて、ついに海岸に追い詰められた２頭は海に運命を任せて沖へと泳ぎ始めた。
ところで著者のアダムスは強固な悲劇反対論者で、何が何でもハッピーエンドに持っていかねばならない。悲劇の多いアンデルセンならあきれ果てたと思われる。
３．のんきな性格の動物たち
ケネス・グレアム（1859-1932）英国人「楽しい川辺 ヒキガエルの冒険（柳に吹く風）」
最初は土手に住む水ネズミが登場するのだが、いつの間にやら主役がヒキガエルになってしまった。まあ細かいことは気にせずにということで。
A・A・ミルン（1882-1956）英国人「クマのプーさん」は、とぼけたプーさんと仲間たちの付き合いや失敗の物語。ところで、中国では「プーさん」が禁書に指定されたとか。なんでも、プーさんと習均平を一緒に歩かせて見せた人がいて、それがそっくりだと評判になったからだそうで。
４．動物はジャングルにも熱帯にも（月にも）
ラドヤード・キプリング英国人ノーベル賞（1865-1936）「ジャングル・ブック」モーグリ少年
インドだったと思うが、ジャングルの捨て子モーグリは動物に育てられ、ジャングル大帝のように暮らしている。巨大な大蛇の背に乗って移動するのだが、他の動物たちは下手をすると催眠術にかけられたように大蛇に呑み込まれそうになる。しかし、人間のモーグリには催眠にかからない。それがなぜノーベル賞なのかわからない。
メーテルリンクのノーベル賞は分かるのだが。
ヒュー・ロフティング（1886-1947）英国人「ドリトル先生シリーズ」
動物語を話すドリトル先生はロンドンに住んでいるのだが、必要とあれば熱帯地方にも出かけて希少種の治療に当たる。ついには、巨大な蛾がやってきて月の巨人の治療を依頼する。月の巨人とはロシア・ソ連の比喩で、知恵遅れではなさそうなのだが、万事スローモーションなのである。それに同じく巨大な樹木たちも「会議」・・・「会議」とささやく。つまりソヴィエトは会議だからだが、今では偉大な領袖に万歳するための会議だとバレてしまった。
５．少年から大人になる痛み
マージョリー・ローリングス米国人（1896-1953）「イヤリング 子鹿物語」
父が病に伏した後、少年は大人になって一家を守らねばならない。畑を荒らす鹿は撃ち殺さねばならないのである。母鹿は毒蛇にかまれた父親が鹿の肝で毒を吸い出すために殺したあと、残された子鹿と少年は遊び友達だったのだが。
メルヘンの世界は避暑地のようなもので、下界のリアリズムに戻らなければならない。
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