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2022年07月20日08:18

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戦略論30〜マキャヴェッリ の生涯と思想

●マキャヴェッリ

◆生涯

 西洋文明の軍事思想は、古代ギリシャまで遡ることができる。だが、ギリシャ=ローマ文明には、『孫子』に匹敵するような兵法書は存在しない。ヨーロッパ文明においても長く軍事思想は発達せず、ようやく本格的な軍事思想が現れたのは16世紀前半のマキャヴェッリを嚆矢とする。
 ニッコロ・マキャヴェッリは、ルネサンス期イタリアの政治家・政治思想家である。マキアベリなどとも書くが、本稿ではマキャヴェッリと表記する。
 マキャヴェッリは、極めて冷徹な現実主義の政治思想で知られる。中世のヨーロッパ文明は、西方キリスト教の宗教的な秩序の下にあったが、マキャヴェッリはキリスト教的な道徳からの政治の解放を唱え、近代政治学の祖とされる。
 マキャヴェッリは、近代西欧における軍事思想の始祖的存在でもある。『君主論』『政略論』『戦術論』等において軍事力の重要性と軍事力に基づいた外交や内政について論じている。
 権力の究極的な基盤は、いずれの時代であっても、武力や警察力にある。マキャヴェッリは、この原理を踏まえて、強い軍隊を創出して国家の基礎とすることを説いた。彼の主張はヨーロッパにおける近代軍事思想の源流となり、プロイセン王フリードリッヒ2世(大王)やナポレオン・ボナパルト、カール・クラウゼウィッツらの軍事思想に大きな影響を与えた。
 マキャヴェッリの生きた時代は、15世紀後半から16世紀前半である。生年は1469年、没年は1527年である。その生涯は、ほぼわが国の戦国時代と重なる。当時イタリアも戦国時代にあって、小国に分立して内戦を繰り返していた。強力な外敵が侵攻してくる脅威もあった、そうした中でマキャヴェッリは、フィレンツェ共和国の書記官となり、主として外交・軍事を担当した。各国との外交に奔走したが、弱小国の代表として辛酸をなめたため、軍事力の強化を唱え、傭兵隊中心の軍制を批判し,農民からなる軍隊の創設に力を尽くした。この間、イタリアの政治家で宗教家、チェザーレ・ボルジアと出会い、彼の政治活動をつぶさに観察した。マキャヴェッリは後に書く『君主論』で、彼を理想的な専制君主として描いている。
 フィレンツェの支配者にメディチ家が復帰すると、反メディチ派の烙印を押されたマキャヴェッリは一切の官職を奪われて、一時投獄された。釈放後はフィレンツェ近郊の寒村で執筆活動に専念し、『君主論』(1513年)、『政略論』(1517年、原題『ティトゥス・リウィウスの初篇十章にもとづく論考』、邦題は『ローマ史論』ともいう)、『戦術論』(1520年) 等を著わした。その後、メディチ家との関係が好転し、フィレンツェに戻った。ところが、メディチ家支配が打倒されて共和政が再建されると、今度はメディチ派と見られて、再び失脚し失意のうちに没した。

◆思想

 マキャヴェッリは、『君主論』で、君主が善良で敬虔で、慈悲深い人間であることは称賛すべきであるとしつつも、人間の現実をみるならば、もしこの理想のように振舞うならば、そうした君主は邪悪な人間が多い中で必ず没落するであろうと論じた。場合によっては約束を踏みにじり、けちに徹し、冷酷であることが是非とも必要であると述べた。そこには、政治目的のためにはいかなる反道徳的な手段も許されるという主張がある。西方キリスト教の宗教的な道徳を否定する主張であり、またシナ文明の有徳者王の思想や徳治の観念とは正反対の考え方である。
 主著『君主論』は、君主はどうあるべきかを説き、また専制君主が行うべき外交・軍事を説いている。君主論と外交論・軍事論が一体になっている。軍事思想については、『君主論』『政略論』に続く『戦術論』で主題的に説いている。
 『戦術論』で、マキャヴェッリは古代ローマの軍事制度を参考にして、当時イタリアで主流だった傭兵による軍事組織ではなく、自国民を徴集して軍事組織を作ることを主張した。騎兵に依存する国家の脆弱性を指摘し、騎兵よりも歩兵を重視した。国民で組織した軍隊に軍事訓練を行って、精強な軍事組織を作り上げることを提案した。また、指揮官には特別の資質が必要であることを説いた。本書は16世紀に21版を重ね、フランス語・英語・ドイツ語・ラテン語に翻訳され、軍事学の研究に影響を与えたとされる。

 次回に続く。

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