明治天皇の業績の一つに、「教育勅語」によって、教育の目標と道徳の基本を示したことが挙げられます。天皇はまた、和歌の内に人の道を詠み、国民に人としてのあり方を諭しました。「心の教育」が求められるなか、その歌は今日に歌い継がれる価値あるものです。
まず、明治天皇が人の心のあり方について詠んだ歌に、次のようなものがあります。
久かたの 空に晴れたる 富士の根の
高きを人の こころともがな
(大意:晴れた大空にそびえる富士山の高根のように、気高い心を自分の心としたいものだ)
あさみどり すみわたりたる 大空の
ひろきをおのが 心ともがな
(大意:浅緑色に澄みわたった大空のように、広々とした心を自分の心としたいものだ)
目の見えぬ 神に向ひて 耻(はじ)ざるは
人のこころの まことなりけり
(大意:目に見えぬ神に向って恥じないのは、人の誠の心であるよ)
さて、人は親に育てられ、やがて自らの人生を歩みだします。誰にとっても親は、人生について教えてくれた最高の恩人です。天皇は親について次のように詠んでいます。
たらちねの みおやのをしへ 新玉の
年ふるままに 身にぞしみける
(大意:年々、新しい年を重ねるにしたがって、身に染みわたるのは、自分を育ててくれた親の有り難い教えである)
次に人には誰しも友だちが必要です。真の友情は、人を磨き、人を成長させます。天皇は、そのことを次のように詠んでいます。
あやまちを 諌(いさ)めかはして 親しむが
まことの友の 心なるらむ
(大意:過ちがあれば互に注意しあって、親しんでゆくが、本当の友だちの心である)
また、天皇は、一人一人の自分の努力の大切さを、わかりやすく歌に詠んでいます。
つもりては 払ふがかたく なりぬべし
ちりばかりなる こととおもへど
(大意:心の汚れというものは、僅かなる塵ほどのことと思っても、そのままにしておくと積もり積もって、払うことができなくなってしまう。だから、自分の心を常に清めなければならない)
思ふこと おもふがままに なれりとも
身をつつしまん ことを忘るな
(大意:なんでも自分の思うようになるようになったとしても、人はわが身を慎むことを忘れてはならないぞ)
天皇自身が、周囲の忠告に謙虚に耳を傾け、努力を惜しみませんでした。
こころある 人のいさめの言の葉は
やまひなき身の くすりなりけり
(大意:忠誠心の篤い臣下のいさめの言葉は、わが身に病はないけれども、心の良薬である)
こうした歌を詠み、また自ら実践した明治天皇。その下に、国民が教育に、自己啓発に努めたのが、近代日本の初め、明治という時代でした。その伝統は、昭和・平成と進むにつれ、見失しなわれてきています。「心の教育」が求められる今日、明治天皇の御製に込められた教訓は、再発見されるべきものではないでしょうか。
次回に続く。
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