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2022年03月25日09:04

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日本の心85〜江戸の町を救った武士道の精神

 明治維新の過程で起こった世界史に輝く出来事が、江戸無血開城です。それは、西郷隆盛と勝海舟の会談によって実現した快挙でした。
 明治元(1868)年3月、新政府軍の東征大総督府は、江戸総攻撃を3月15日と決定しました。江戸に入った大総督府下参謀・西郷隆盛は、13日、高輪の薩摩屋敷において、幕府代表の勝海舟と会談しました。彼らは、立場は敵同士です。しかし、敵といえども互いを認め合うところに、武士道の精神があります。
 勝と西郷の二人は、愛宕山に登りました。そして、山上から江戸の町を見渡しました。当時の江戸は120万の人口を抱える世界最大級の都市でした。もし幕府と新政府の両軍が戦うならば、多くの人の生命や財産が失われることになります。勝は西郷に言いました。「この江戸の町を戦火で焼失させてしまうのは、忍びないことです」と。二人は翌日、薩摩屋敷で会うことを約束して別れました。
 翌14日、勝は嘆願書を携えて、西郷のもとを訪れました。西郷はその書状を読みました。そこには、徳川幕府が恭順するにあたっての条件が書かれていました。
 勝は戦争を何としても回避したいと考えていました。もし日本人同士が戦をすれば、当然、英仏等がそれにつけこんできます。日本は、白人の植民地にされてしまうかもしれません。当時の国際情勢を、勝はよく認識していました。
 また、勝は幕閣ではありましたが、もはや幕府だけの利益にとらわれていませんでした。勝はペリー来航から7年後の安政7年(1860)には、咸臨丸に乗り込んで渡米し、日本とは全く異なる世界を目の当たりにしています。そして幕藩体制のもとでは世界の荒波の中を生き抜くことはできない、新しい日本をつくる必要があると考えていました。
西郷はそういう勝の高い見識を、深く理解していました。そして国家国民を思う勝の誠心誠意を疑いませんでした。西郷は結局、細かいことは言わず、勝の出した条件を、ほとんどそのまま呑みました。そして、翌日の江戸総攻撃の中止を決断しました。
 勝は、この会談のことを後年、次のように語っています。
 「いよいよ談判になると、西郷はおれのいうことを一々信用してくれ、その間一点の疑念もはさまなかった。
 『いろいろ難しい議論もありましょうが、私が一身にかけてお引受けします』ーー西郷のこの一言で、江戸百万の生霊(人間)も、その生命と財産とを保つことができ、また徳川氏もその滅亡を免れたのだ。もしこれが他人であったら、いやあなたのいうことは自家撞着だとか、言行不一致だとか、たくさんの凶徒があのとおり処々に屯集しているのに、恭順の実はどこにあるとか、いろいろうるさく責め立てるに違いない。万一そうなると、談判はたちまち破裂だ。しかし西郷はそんな野暮は言わない。その大局を達観して、しかも果断に富んでいたにはおれも感心した。
 このとき、おれが殊に感心したのは、西郷がおれに対して幕府の重臣たるだけの敬礼を失わず、談判のときにも始終座を正して手を膝の上に乗せ、少しも戦勝の威光でもって敗軍の将を軽蔑するというような風が見えなかったことだ。その胆量の大きいことは、いわゆる天空海闊で、見識ぶるなどということはもとより少しもなかった」
 明治元年(1868)4月1日、血を流さずして江戸城は新政府軍に明け渡されました。もし戦争が回避できなかったならば、両軍はもとより江戸市民もまた甚大な損害を被っていたでしょう。
 剣の道には「殺人刀(せつにんとう)」と「活人剣(かつにんけん)」があります。人を殺すより、人を活かす剣こそが、真の剣の道とされました。そして武士道とは、単に戦いの道ではなく、その真髄は平和を実現し、人々の安寧を守るための道なのです。つまり大調和の精神こそが、武士道の真髄なのです。勝海舟と西郷隆盛は、こうした武士道の真髄を体得した人物だったのです。
 伝記作家の木村毅は、次のように書いています。
 「由来、政治革新には必ず悲惨な戦争、残虐な殺戮がつきものである。それを明治維新には、誠心誠意と相互のよき了解と敬意によって無血で仕上げた。それは日本人でなくてはできなかったことで、世界に輝かしいただ一つの異例だ。江戸城の明け渡しは、西郷、勝両英雄の生涯の最も高潮した頂点であるとともに、また二千年の日本歴史の最大の誇りとなる一場面でなくてはならない」

参考資料
・勝海舟談『氷川清話』(角川文庫)
・木村毅著『西郷南州』(絶版)

 次回に続く。

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