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2022年03月13日07:05

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日本の心79〜「東洋道徳、西洋芸術」:佐久間象山

 19世紀半ば、アヘン戦争(1840)で、シナ(清国)が英国に敗れると、わが国に強い衝撃が走りました。それまで日本人にとって、シナは世界の中心的な存在でした。そのシナが西洋に敗北を喫したことは、世界観が揺らぐほどの大事件でした。この時、この衝撃を最も強く感じ、行動した日本人が、佐久間象山(ぞうざん)です。
 象山は、朱子学を信奉する信州・松代藩の兵学者でした。シナの敗北を知るや、象山は、白人列強の侵攻の手は、必ずわが国に及んでくる、といち早く予見しました。そして、儒学の観念世界を破り出て、自ら西洋の科学技術を学び取ろうとします。白人に征服・支配されないためです。象山はそのために、オランダ語を学ぶことを決意します。そして、苦闘の果てに原書を読める力をつけ、西洋の科学書・軍事書等を読破します。さらに、それらの本をもとに、独力でガラス・大砲・望遠鏡・電信機・写真機等を製作し、次々に技術をものにしていきました。物凄いチャレンジ精神だと思います。
 これほどの気概をもつアジア人は、インドにもシナにもいませんでした。ただ日本に、象山という巨人がいました。彼の先駆けによって、この日本が、そしてアジアが、動き出したのです。
 象山のこのチャレンジ精神は、武士道の表れでした。
 象山の最も有名な言葉は、「東洋道徳、西洋芸術」です。この言葉は次の一文に見えます。「東洋の道徳と西洋の科学技術、この両者についてあますところなく詳しく究めつくし、これによって民衆の生活を益し、ひいては国恩に報いる」(『省愆録』)象山にとって、東洋の道徳と西洋の科学技術を究めることは、ともに民利国益のためでした。科学技術の修得に努めたのも、武士として日本の国を守るための行動でした。単なる知的興味によるのではありません。象山は次のように述べています。
 「彼を知り己れを知らなくては防御の策も立たず、たとえ強いて立てても実際の効果はないと思います。その彼を知ることは、西洋の言葉に通じ、西洋の学問・技術を究め尽くしてはじめて可能となるのです」(『答弁書 ハルマ字書を藩の事業として開版したい』)
 こう述べる象山がよりどころとしたのは、シナの兵法書の古典『孫子』でした。『孫子』は、「敵を知り、己を知らば百戦危うからず」といい、相手を知り己を知ることが、勝利の要諦とします。また、「百戦百勝は善の善なるものにあらず、戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり」とします。戦って勝つのが最善ではないのです。戦わずして勝つことこそ、最高の道なのです。象山は兵学者として、孫子の兵法に基づいて西洋列強に学び、相手から科学技術を採り入れて我が国の国防力を強大にし、相手に侵攻をあきらめさせることをめざしたのです。
 一方、彼のいうところの「東洋道徳」とは、儒教的な道徳です。武士道に摂取された「仁」「忠」「孝」等の徳目の体系です。象山はこうした道徳が実践されているわが国を西洋列強の侵攻から守ろうとしました。これもまた武士道の実践と見ることができます。
 ここで象山に特徴的なことは、彼は、当時の日本の国家社会に、孔子が理想とした国家社会を見ていたことです。孔子の理想とは、古代シナの周王朝初期の封建制であり、その復興が儒教の政治道徳の目標でした。象山は、孔子の理想は、わが国の皇室を中心とする徳川封建制に実現している、だから、これを守らねばならないと考えました。こうした道義国家・日本を守るために、西洋の科学技術の摂取は焦眉の課題としました。
 彼は西洋の新知識に通じた開国論者でありながら、政治的には佐幕であり、公武合体論者であるという複雑な様相を呈しています。幕末の錯綜した思潮の中で、彼の考えは容易に理解されませんでした。このため、彼は偏狭な攘夷派の手によって、暗殺されてしまいます。元治元年(1864)7月11日、京都でのことでした。
 しかし死して後も、象山の魂は滅びませんでした。象山は次世代の人材を育てる偉大な教育者でもあったからです。彼のもとには、諸国から数千の門弟が集まり、彼が獲得した科学知識や彼の思想・精神を学びました。弟子の中には、「象門の二虎」と呼ばれた吉田寅次郎(松陰)・小林虎三郎、勝海舟・坂本竜馬・橋本左内・河井継之助らがいます。
東洋の道徳と西洋の科学技術の融合によって、日本の防衛・発展をめざした巨人・象山。武士としての彼の熱き魂は、弟子たちによって受け継がれ、日本の変革と文明開化の推進力となったのでした。

参考資料
・『日本の名著 30 佐久間象山・横井小楠』(中央公論新社)
・松本健一著『評伝 佐久間象山』(中央公論新社)

 次回に続く。

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