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2022年02月16日10:15

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民主対専制31〜家族型的な価値観を超えるものへ

●家族型的な価値観を超えるものへ

 人類は、家族型による価値観を超えた高次元の価値観を見出さねばならない。それが出来なければ、家族型による価値観の対立によって、果てしない対立を続け、自滅に向かうだろう。次にこの点について述べる。
 17世紀の西欧で、近代化が始まった。近代化とは、マックス・ウエーバーによれば「生活全般の合理化」である。近代化は、文化・政治・経済・社会の各方面で進んだ。その過程で市民革命が起こった。トッドは、2002年(平成14年)刊行の著書『帝国以後 アメリカ・システムの崩壊』(以下、『帝国以後』)等で、市民革命の時代は伝統的社会から近代的社会への移行期だったのであり、移行期は危機の時代であり、大きな社会変動が起こるという説を打ち出した。
 トッドによれば、移行期の危機にある社会は、それぞれ自己の伝統に基づく価値観を強調し、他者の価値観を排斥する。普遍的人権思想とナチズム、自由主義と共産主義の対立は、移行期の危機における対外的反応の相互作用と考えられる。こうした対立が強く現れた場合は、戦争となる。ヨーロッパにおける戦争は、第1次世界大戦、第2次世界大戦へと大規模化した。この過程で自由主義、社会主義、共産主義、ファシズム、ナチズム等が激しくぶつかり合った。それを経て初めてヨーロッパは、協調と統合への道に進んだ。
 トッドは、20世紀後半から21世紀の現在にかけての時代は、世界的な移行期にあると見ている。伝統的社会から近代的社会への移行期は、一時的な局面であり、移行期における社会現象は、「この局面が終わると、危機は鎮静化する」。そして、移行期のイデオロギーが後退した後に普及するのは、民主主義(デモクラシー)だと説いている。
 トッドによると、伝統的社会から近代的社会への移行期に起こるのは、識字率の向上と出産数の減少によって、個人の意識が発達することである。個人の意識が発達した世代は、政治への参加を求める。そこで旧世代と新世代の対立・抗争が起こる。その過程を経て、民衆の政治参加が制度として実現する。それが民主主義である。
 トッドは言う。「どの人類学的システムも、時間的なずれはあっても並行的に、識字化に由来する個人主義の伸長という同じ動きによって手を加えられる、ということが徐々に分かって来ている。民主主義への収斂の要素がついに出現するのである」と。
 トッドの言う「民主主義」とは、個人の意識の発達による自由主義的な民主主義(リベラル・デモクラシー)のことである。社会主義、共産主義、ファシズム、ナチズム等の移行期イデオロギーは、やがて後退し、自由主義的民主主義が普及し、世界はリベラル・デモクラシーに収斂するというのが、トッドの主張である。
 トッドは、近代化の指標としての識字率の向上、出生数の減少によって個人の意識が発達し、それによってリベラル・デモクラシーが世界に広がることを予想している。また識字化と出生調節は、単に政治的・社会的な意識の変化をもたらすだけでなく、人々の脱宗教化・世俗化をもたらすと見ている。そして、その結果、人類の人口は均衡に向かい、世界は政治的に安定し、平和になっていくとも予想している。2007年に刊行した『文明の接近――「イスラームVS西洋」の虚構』(以下、『文明の接近』)で、トッドは次のように述べている。
 「世界各地の住民は、文明と宗教を異にするけれども、収斂の軌道に乗っている。出生率指数の収斂は、われわれが将来へと、それも近い将来と想いを馳せることを許してくれるのである。その近い将来においては、文化的伝統の多様性は、もはや衝突を生み出すものと知覚されぬようになり、単に人間の歴史の豊かさを証言するものとなるであろう」と。
 ここで世界の諸文明と諸宗教が収斂する対象とされるのが、リベラル・デモクラシーである。
 こうしたトッドの主張は、家族型的な価値観で言うと、核家族系の社会が生み出した的な価値観が、非核家族的な価値観を核家族的な価値観に変えていくことを意味する。トッドは、ユダヤ系フランス人であり、イギリスの文化への理解も深い。イギリスとフランスの主要部で発達した核家族的な価値観を身に着けた知識人である。そのことが、核家族的な価値観から発達したリベラル・デモクラシーを高く評価する彼の思想の土壌となっていると思われる。
 だが、トッドの予想のようには、世界的な価値観の変化は進んでいない。トッドは、『文明の接近』で、近代西洋文明とイスラーム文明の「接近(ランデブー)」を予想した。ランデブーは、「会う約束」や「約束による会合」を意味する。単なる近づきや出会いではなく、双方に集合する意思があり、会って対話したり、共同の行為をするのが、ランデブーである。本書の刊行の4年後に「アラブの春」が起こり、現在まで10年を経過した。この間のイスラーム教文化圏の動向を見ると、ヨーロッパに流入したムスリムの難民・移民の中には、西欧的・キリスト教的な文化に反発し、テロ活動に身を投じる者が少なくない。また、中東を中心に「イスラーム国」(IS)、アルカーイダ、タリバン等の過激組織が活動し、イスラーム教的かつ共同体家族的な価値観を復興させている。近代西洋文明とイスラーム文明が「接近(ランデブー)」し、リベラル・デモクラシーがヨーロッパのムスリム移民の社会や中東の諸国家に浸透しているとは言えない。
 こうした動向にさらに重要な動向が加わっている。2013年から共産中国が「一帯一路」構想を以って、アジア・アフリカの各地に進出し、専制主義的かつ共同体家族的な価値観を広げている。ソ連崩壊後、一時民主化したロシアもプーチンの強権的な政治のもと、旧ソ連圏で専制主義的かつ共同体家族的な価値観を復興している。世界的に見ると、近年は民主化の停滞と専制主義の拡大が目立っている。核家族的な価値観であるリベラル・デモクラシーが人類の向かう収斂点だというトッドのかなり楽観論的な予想は、世界の現実の前では通用しなくなっている。

 次回に続く。

************* 著書のご案内 ****************

 『人類を導く日本精神〜新しい文明への飛躍』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc682724c63c58d608c99ea4ddca44e0
 『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
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