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2022年02月12日10:33

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民主対専制29〜根底にある家族型に基づく価値観の違い

5.根底にある家族型に基づく価値観の違い

●家族型に基づく価値観の違い

 ここまで、本稿は哲学的・政治学的・国際関係論的な観点から書いてきたが、ここで人類学的な観点を加える。
 民主主義と専制主義が対立し、自由、民主主義、人権、法の支配が普遍的な価値になって行かない原因の一つに、家族型の違いに基づく価値観の違いがあると私は考える。単なる価値観の違いではなく、家族型の違いに基づくゆえに、対立は容易に解消しないことを指摘し、ではどうすればよいかを述べたい。
 この項目に書くことは、家族人類学者・歴史人口学者のエマヌエル・トッドの研究に基づいている。トッドについては、次の拙稿に書いたので、ご参照願いたい。

拙稿「家族・国家・人口と人類の将来〜エマニュエル・トッド」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion09h.htm
拙稿「トッドの移民論と日本の移民問題」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion09i.htm

 さて、トッドは、世界各地の家族制度を研究し、婚姻や遺産相続のあり方等によって、8つの家族型に分類した。絶対核家族、平等主義核家族、直系家族、外婚制共同体家族、内婚制共同体家族、非対称共同体家族、アノミー的家族、アフリカ・システムである。
 トッドによると、世界的に見て、これら8つの家族型のうち重要なのは、絶対核家族、平等主義核家族、直系家族、外婚制共同体家族、内婚制共同体家族の5つである。私見を加えると、絶対核家族と平等主義核家族は核家族系のグループであり、それ以外の3つは非核家族系のグループである。非核家族のうち、外婚制共同体家族と内婚制共同体家族は共同体家族とまめることができる。
 それゆえ、

A核家族系
 A1 絶対核家族
 A2 平等主義核家族
B非核家族系
B1 直系家族
B2 共同体家族
 B2a 外婚制共同体家族
B2b 内婚制共同体家族

というように整理することができる。
 これらの家族型の特徴は、概略次の通りである。

A 核家族系

 核家族では、親子は自立的であり、子供は成人すると親から独立する。そのため、父と子の関係は自由主義的である。
 核家族には、絶対核家族と平等主義核家族がある。この違いは、遺産相続の違いによる。

A1 絶対核家族

 絶対核家族では、親が自由に遺産の分配を決定できる遺言の慣行があり、兄弟間の平等には無関心である。この型が生み出す基本的価値は自由と不平等である。
 絶対核家族は、世界中で西ヨーロッパにしか見られない特異な型だった。大ブリテン島の大部分(イングランド、ウェールズ)、オランダの主要部、デンマーク、ノルウェー南部、それにフランスのブルターニュ地方に分布するのみである。植民によって、アメリカ合衆国とカナダの大部分にも分布を広げた。
 絶対核家族が支配的な社会は、自由を基本的価値とし、平等には重きを置かない。その価値観をもとに、イギリスでは、近代化の過程で自由主義や個人主義が発達した。アングロ・サクソン人が主流を占めるアメリカ合衆国でも、この価値観が継承されている。英米のアングロ・サクソン文化の中で発達した資本主義にもその特徴があり、自由競争や市場による決定が重視される。

A2 平等主義核家族

 平等主義核家族は、遺産は兄弟で均等に分配され、兄弟は平等である。そのため、兄弟間の関係は平等主義的である。この型が生み出す基本的価値は、自由と平等である。
 平等主義核家族は、ヨーロッパでは、フランスのパリ盆地を中心とする北フランスと地中海海岸部、北部イタリア、南イタリアとシチリア、イベリア半島の中部および南部に分布する。西欧以外では、ポーランド、ルーマニア、ギリシャ、エチオピアに見られ、スペイン・ポルトガルの植民地だったラテン・アメリカではほぼ全域に分布する。
 平等主義核家族が支配的な社会は、自由だけでなく平等を価値とする。フランス革命は、「自由・平等・友愛」を旗印とした。私は、イギリスで発達した自由を基本的な価値とする自由主義を古典的自由主義、自由だけでなく平等に配慮する自由主義を修正的自由主義と呼ぶ。前者は個人の自由と権利の実現・拡大を追求するが、後者は弱者への救済や社会保障を重視する。

B 非核家族系

B1 直系家族

 直系家族では、親は子に対して権威的であり、子供のうち一人のみを跡取りとし、結婚後も親の家に同居させ、遺産を相続させる。遺産は主に長男に相続されるので、兄弟は不平等である。跡取り以外の子供は遺産相続から排除され、成年に達すると家を出なければならない。父子関係は権威主義的であり、兄弟関係は不平等主義的である。この型が生み出す基本的価値は、権威と不平等である。
 直系家族は、ヨーロッパでは広く見られる。ドイツ、オーストリア、ドイツ語圏スイス、ベルギー、チェコ、スウェーデン・ノルウェーの大部分、イギリスのウェールズ、スコットランドの西半分、アイルランド、イベリア半島北部、フランス南部のオック語地方、及びフランスが植民活動をしたカナダのケベック地方に分布する。ヨーロッパ以外では、日本と朝鮮、そしてユダヤが直系家族である。
 
B2 共同体家族

 共同体家族では、親は子に対し権威的だが、遺産は子供に均等に分配され、兄弟は平等である。聖人・結婚後も息子たちがすべて親の家に住み続けて、大家族を作る。父子関係は権威主義的で、兄弟関係は平等主義的である。この型が生み出す基本的価値は、権威と平等である。
 共同体家族は、ロシア、シナ、モンゴル、北インド、ベトナムなど、ユーラシア大陸の大半に分布する。ヨーロッパでは、フィンランド、ハンガリー、ユーゴスラヴィア、ブルガリアに見られ、西欧ではイタリアのトスカナ地方およびその周辺のみである。他にキューバにも分布する。
 共同体家族には、外婚制と内婚制の二つの型がある。前者は、配偶者を自分の所属する集団の外から得る制度であり、後者は自分の属する集団の内部で配偶者を得る制度である。外婚制と内婚制の違いは、集団が外に開かれることを好むか嫌うかにある。

B2a 外婚制共同体家族

 ヨーロッパの共同体家族は外婚制である。トッドは、共産主義が広がった地域が、外婚制共同体家族の地域と一致することを発見した。西ヨーロッパでは、イタリア共産党の強固な地盤をなしていたのが、この型の地域である。共同体家族の権威と平等に基づく価値観は、共産主義の一党独裁と社会的平等という価値観と合致する。共産主義は、もともと権威と平等に基づく価値観を持つ社会にのみ浸透し、定着した。価値観の違う社会では、定着しなかった。

B2b 内婚制共同体家族

 アラブ圏の共同体家族は内婚制である。私見を述べると、イスラーム教は内婚制共同体家族のアラブ圏で発生し、その周辺に広がった。中東、西アジア、中央アジアなどユーラシア大陸の共同体家族が支配的な地域を中心に教勢を拡大した。共同体家族の権威と平等に基づく価値観は、イスラーム教の絶対唯一の神への奴隷的な服従と社会的平等という価値観と合致すると言えよう。

 以上、世界的に見て重要な家族型を、核家族系と非核家族系に分け、その大分類のもとに、主要な家族型の特徴を説明した。
 家族型の違いは、価値観の違いを生み出す。その価値観は、親子関係により自由主義的であるか権威主義的であるか、兄弟関係により平等主義的であるか不平等主義的であるかで異なる。子供が結婚後、親から独立するか、結婚後も親と同居するか。遺産相続で親が親の権威を以って子供のうちの誰に相続するかを決めるか、そうでないか。遺産を子供に平等に配分するか、一人の子供にだけ相続するのをよしとするかの違いである。ここにおける自由/権威、平等/不平等という価値観の違いは、親子の自立/同居、遺産相続の平等/差別という家族生活のあり方に基づくものである。
 ここで本稿で検討している「民主主義対専制主義」という対立構図と、家族型の関係を述べよう。近代西欧に現れた民主主義は、核家族が主な社会で発達した制度・思想である。一方、現代の専制主義の二大勢力である共産主義とイスラーム教は、非核家族である共同体家族が主な社会で発達した思想であり宗教である。そして、民主主義と専制主義の間には、家族型に基づく価値観の違いが存在する。
 家族型的な価値観は、核家族系の価値観と非核家族系の価値観に分けることが出来る。前者は自由、後者は権威を中心的な価値とする価値観である。この違いが、民主主義と専制主義の対立の原因の一つとなっているのである。

 次回に続く。

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