●米国は中国の理論闘争に反撃せず
２０２１年１２月６日には、中国人民大学の重陽金融研究院が「米国の民主主義への１０の問い」と題する研究報告を発表した。大量の事実とデータ、各国の関係機関や関係者、専門家の見解を挙げ、米国の制度運営や国家ガバナンス、社会現状、人権と自由、国際的影響など１０の方面から米国の民主主義に対する疑問を呈した。
同大学の劉元春副校長は、米国の民主主義の現状は米国が自らかぶる「民主主義」の仮面に見合うものなのか、米国に世界の手本になる資格はあるのか、運命の試練に直面した人類が解決策を渇望している現在、米国の行状は人類の処方箋になっているのかとの疑問を掲げ、今回の報告が各国の米国の民主主義に対する見極め、全人類共通の価値の形成に役立つことに期待を示した。
この報告書は中国語版のほか、英語、フランス語、ロシア語、スペイン語各版がある。報告書の発表会には３０数カ国の在中国大使館の代表らが出席したという。
さらに１２月７日には、中国・新華社のシンクタンク、新華社国家高端智庫が報告書「全人類共通価値の追求と模索−中国における民主主義・自由・人権の実践」を発表した。この報告書は、一つの政治制度が民主的で先進的であるかを評価するのは容易ではなく、客観的で全面的な基準が欠けているのが難点だとし、中国は民主主義をはかる基準を打ち出しているとして８点を列記した。
�々颪了愼撹瑤�法に基づき秩序立って交代できるか。
�∩歓楊韻�法に基づき国や社会の事を管理し、経済・文化事業を管理できるか。
��人民大衆が円滑に利益要求を表明できるか。
�ぜ匆颪粒栃�面が国の政治生活に効果的に関与できるか。
�ス颪琉媚弖萃蠅魏奮慍宗¬閏膕修任�るか。
�Τ栃�面の人材が公平な競争を通じて国の指導・管理システムに入ることができるか。
��与党が憲法法律の規定に基づき国の事に対する指導を実現できるか。
�┯⇔呂留人僂�効果的に制約、監督されているか。
私見を述べると、この基準なるものは、自由主義的な民主主義ではなく、統制主義的な民主主義の特徴である。ここに欠けているのは、自由の実現と権利の保障である。近代民主主義は、自由の実現と権利の保障を求めて発達したものであり、そのために民衆が政治に参加する制度である。世界人権宣言は「人権及び基本的自由」を３０条にわたって列挙しており、その自由と権利が擁護されていて初めて、民主主義は機能する。新疆ウイグル等におけるような虐殺、拷問、強制労働、避妊手術の強制、民族語教育の禁止等が行われている国家には、「自由と人権を守るための民主主義」は存在しない。
自由、民主主義、人権、法の支配という４つの価値のうち、民主主義は中国も北朝鮮も掲げる価値であり、旧ソ連も掲げていたものである。米政府は民主主義を第一の価値として打ち出し、これを旗印にしているが、理論的に雑である。民主主義の一本槍ではなく、自由の実現と権利の保障の程度の差を強調することがポイントである。そのために、中国における共産主義による犠牲者数を揚げたり、香港、新疆ウイグル、モンゴル、チベット等での蛮行を非難することが有効になる。
ジャーナリスト、福島香織氏は、JBpress１２月９日付の記事で白書の内容を鋭く批判した。
「中国の民主とはすべての過程を共産党が指導する民主である。共産党はこの民主を実現するために、共産党と異なる少数意見を徹底排除し、大多数者を擁護する。それを私たちは『専制』と呼んでいるが、それが中国の民主なのだ」
「私は、中国と付き合う上では、最低限埋めなければならない民主主義の価値観の差というものがある、と思っている。それが『人権』だ。その人権の中でも重要なものが精神的自由、つまり『思想・良心の自由』『言論・表現の自由』や『信教の自由』などだ。言論や信仰を理由に当局に捕えられたり弾圧されたりする状況は、それがどこの国であっても看過できない。
中国には中国の人権がある、というが、それは生存権であり、共産党に忠実な『人民』にだけ許される自由や人権は、家畜の自由であり家畜の権利にすぎない」と。
さて、民主主義サミットの直前、１２月４〜７日に中国側が矢継ぎ早に理論闘争の弾丸を撃って来たのに対し、米国側は反撃らしい反撃を行わなかった。バイデン政権は、中国共産党の主張に有効な反論ができるか。中国の批判を想定して理論武装の準備をしてきたかが疑われた。
中国側からの米国流民主主義への批判が激化する中で、ただ一つ、米国が行ったのは、１２月７日に新彊ウイグル等での人権侵害を理由として北京五輪の「外交的ボイコット」を表明したことである。北京冬季五輪の前にサミットを行って中国をけん制するという計画があったのかは分からないが、五輪の外交的ボイコットを打ち出す中で、民主主義サミットを開催して成功すれば、中国に圧力を加えることは出来るだろう。だが、ボイコットに同盟国・友好国の賛同を期待するだけでは、中国の理論的な批判への有効な対応にはならない。民主主義サミットの場で、説得力のある訴えが出来るか。中国の影響を受けた参加国から質問や要望が出た場合に、しっかり回答ができるかが注目された。
次回に続く。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 著書のご案内 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
『人類を導く日本精神〜新しい文明への飛躍』（星雲社）
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc682724c63c58d608c99ea4ddca44e0
『超宗教の時代の宗教概論』（星雲社）
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/d4dac1aadbac9b22a290a449a4adb3a1
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
ログインしてコメントを確認・投稿する